きっかけは悪夢だった

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────  「お嬢様、お嬢様起きてください。」  「うーん……」  悪夢(としか言いようがない)から解放され、クイーンサイズの天蓋付きベッドから私は半身を起こした。  私の名前は──そう、エスターマルク選帝侯エルセベート・フォン・ローゼンベルク。20歳の誕生日を迎えた先週、皇帝陛下より選帝侯就任の『祝福の儀式』を受けたばかりのホヤホヤ諸侯。  うん、記憶は確かだ。あまりにリアルで凄惨な夢を見たせいで混乱してる気持ちを私は懸命に落ち着かせた。  ベッドの傍らにはプラチナブロンドの綺麗な髪を後ろにまとめた侍女兼護衛のジークリンデが立っている。白と黒を基調としたゴシックなメイド服姿だが、腰のベルトに優美な曲線を描く魔銀(ミスリル)のサーベルを吊っているところが他のメイドと違っている。  半妖精(ハーフエルフ)の彼女は少し耳が尖っていて、見慣れない人から時折ジロジロ見られることもあるが本人は気にした様子が全くない。  軍人だった父が傭兵だった彼女をヘッドハンティングして屋敷に連れて来たのはまだあたしが5歳の頃で、驚くべきことにそれから彼女は全く歳を取らない。  「本日はお加減いかがですか?」  彼女が心配そうに私の顔を覗き込む。  ジークリンデが今朝見た夢を知ってる。というわけでは決してない。  先週爵位授与で受けた『祝福の儀式』の屈辱とその後の私の荒れ具合を心配しているのだ。  「もう大丈夫よ。」  だからもう放っておいて!と叫び出しそうになる気持ちを私は懸命に堪えた。
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