猫が姿を消したなら

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今里から布施までは1駅だから、普段は歩くのだが今日は電車で移動した。 普段は2段飛ばしで駆け上がる階段を、1段ずつ踏みつける。 今里、布施間は約2分。 1R3分で行われるキックボクシングの試合。 2分だと1R分にも満たない。 だがその時間は、あまりにもゆっくりと流れた。 窓から外を眺めていると、光るライトが透明な砂利に見える。 砂の中に輝く透明な粒。 正確にはガラスの破片だと聞く。 あれは幼稚園の頃だった。 俺たちはそれを探すことに必死だった。 大量の砂を手の平に乗せると、それをゆっくりと揺すり減っていく砂の中から透明な粒を見つける。 「あった!!」 そう言うと、周りに人が群がり 「いいな」 「俺の方が大きいわ」 「どこにあった?」 などとと口々に感想を言い合う。 あの頃は間違いなく平和だった。 たった一言「あった!」と。そう言えば無条件に周りを囲んでくれる人達だったから、そこには、ただ透明の粒を見つけた。という事実以外は存在しなかったから。 その空間を見て、「仲良し」という言葉を発する親の気持ちもよく分かる。 間違いなくあの空間は「仲良し」だった。 つまり、互いに対する関心が適度に低く、意思の持たない一体の生き物を作り上げ、ぬるい湯に浸り皆が同じペースでその体温を低下させた。 「残り1分!」 セコンドの声が聞こえた気がした。 つまり2分が経過したということだ。 「布施ー、布施ー」 今度は幻聴ではない。 駅員の気だるそうな声が車内に響く。 立ち上がる。 いつものように胸ポケットから取り出したサングラスを着用する。 夜がまた一層濃くなる。
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