Ⅰ章――海の伝説

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 俺と一歳違いの妹、藍原(あいはら)()()()だけじゃなく、母ちゃんに相談もなく、勝手に辞めてきたのだ。  当然、俺たちは困惑し、うろたえた。  俺たちを呑気になだめる父ちゃんの話を聞けば、前からひそかに計画していたらしい。『見通しがついたから、ようやく発表したんだよーん!』とぬかしたのだ。  当時の俺は中三だったこともあり、進路に迷っていた。俺にも俺の計画があるんだから、もっと早く言ってほしかったと、不満をぶちまけた。  その返答が、 『こういうのはサプライズがオツだろぅ?』  と、やってやった感ダダ漏れの顔で威張ってきた。ワケのわからん屁理屈でドヤ顔されては呆れるしかない。  これは一大事だ。数日はピリピリした家の中になるかと思いきや、穂鷺美と母ちゃんは一転、手のひら返しで喜んでいた。  家族会議になるかもと気を揉んでいたのに、父ちゃんの口車に乗せられたチョロい二人は、妄想を爆発させていたのだ。  話はだいぶ進んでいるらしく、取りやめはできないとのことだった。  地元の高校に進学しようと目星をつけ始めていただけに、俺の進学先選びは難航することになった。でも決断しなければならない。そして一ヶ月悩んだ挙句、決断したのだ。  親についていくことに。  いや、元々考えるまでもなかったのだ。生活スキルレベルゼロの俺が、一人で暮らしていけるわけもないし、寮生活は何かと厳しそう。ということで、俺はチョロ男に転化したのだ。  田舎暮らしは退屈で不便。そんなイメージは払拭された。  流行りの街で遊ぶ日々が当たり前だった俺には、自然の遊園地は刺激的だった。見たことない虫が出てくるのは厄介だが、それすら俺の日常を輝かせてくれた。  都会の移住者が珍しかったのもあって質問攻めを食らい、島のクラスメイトとも仲良くなれた。近所の人たちも俺たち家族を快く迎えてくれる優しい人ばかり。今じゃ俺の田舎生活は順風満帆だ。
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