1 ごねる娘と母の攻防

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1 ごねる娘と母の攻防

「食べたくない。ユカ、お腹すいてないもん!」  夕食の皿がずらりと並ぶテーブルで、娘のユカがごねた。  怒鳴るより前に、大きな溜め息が出た。  外資系大型スーパーで購入したピンクの絵皿。豚のキャラクターが描かれた皿には、食べかけのポーク・ソーセージが乗っている。  配膳した時と同じ5本。  5本とも全て、半分だけ、きれいに齧られている。  野菜はいつものこととして、食べるなら丸ごと1本食べてから、次食べればいいのに……。  ソーセージの傍らでは、肉類の茶色をカラフルに飾るべくよそったグリーンレタスが水気を失い、しょんぼり頭を下げている。  絵皿には、楽しそうに小太鼓を叩く二足歩行の豚の上に『BEAT』とプリントされているが、長いこと使っているせいで『B』が剥げて『EAT』になっている。 『EAT(食え)』。  また私が残りを食べるのかよ……。  座ると三段になる腹の肉をこっそり摘まみながら、今度こそ、とユカの横に座り直す。 「ユカちゃん、ブタさんが『食べて』って」 「いや! 食べたくない!」  そっぽを向き、背後のカーテンに顔を埋めだした。  娘なりのボイコットだ。強情なところは昔の自分にそっくりだ、恐るべしDNA、と(はら)の中がむかむかしてくる。 「ちょっと! ユカのソーセージと野菜、あなたが食べちゃってよ」 「え、俺?」  びっくりしたように夫が聞き返して来た。承認欲求を満たすための他人のSNS投稿なんか腹の足しにもならないだろうに、スマートフォンを忙しげにタップしやがって。
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