バク、現る

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バク、現る

 今日は、憂鬱な一日だった。  昨日の夜、慣れない悪夢を見たせいだ。  私が物心ついた頃には、「イイユーメ」はすでにごく当たり前に使われるようになっていた。  イイユーメはその名の通り、悪夢を見ないようにするための薬だ。  睡眠の質、特に夢の内容がパフォーマンスに影響するという研究結果から開発されたこの薬は、安価で販売され、今ではほとんどの国民が毎日服用している。  小さな紫色のカプセルで、寝る前に一錠飲むことになっている。これのおかげで私は、悪夢を見たことがなかった。  少なくとも、昨日までは。  昨日の夜、あまりにも疲れていた私は、イイユーメを飲むのも忘れ、ほとんど気絶するように寝てしまったのだ。  おかげさまで、遅刻したあげく変な生き物に襲われる悪夢を見てしまった。  遅刻するのも怖かったけど、その生き物はいくら逃げてもすごいスピードで追いかけてきて、もっと怖かった。  あれはなんだったんだろう。知っている動物ではなかったと思う。確か白黒だったような……でも、何せ夢のことで、記憶は曖昧だ。  まあ、いいや。悪夢のことなんて早く忘れてしまおう。  今日は、絶対にイイユーメを飲むのを忘れないぞ。  ……そう思ってたのに。  家に着くと、謎の生き物が、私のベッドの上で寝そべっていた。  それを見た私は、その子がまさに夢に出てきた生き物だとわかった。
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