バク、現る

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 離れたところからそっと観察する。  中型犬くらいの大きさの体。白黒の毛皮。アリクイのように突き出た鼻先。 「……なに、この子」  どうやら、眠っているみたいで、目を閉じたまま動かない。  ひとまず、危険な生き物ではなさそうだ。おそるおそる近づく。  私のベッドの上で、完全に安心したように眠っている。そっと触れてみると、思いのほかふわふわの毛並みをしていた。  ……いったい、どこから来たんだろう。 「ワカル、白黒で鼻が尖った生き物って?」  スマホを開いて人工知能「ワカル」を呼び出し、この生き物が何かを調べることにした。 『それはシマウマのことですか』 「いや、もっと、こう……アリクイみたいな形をしてて」 『それはバクのことですか』 「バク……?」  聞いたこともない生き物の名前だった。 「バクについて詳しく」 『バクは、奇蹄目バク科の哺乳類です。東南アジアや中南米に生息しています』 「ほうほう」  いや、どうして東南アジアや中南米に生息しているはずの動物が、私のベッドの上にいるのだろう。  ワカルは続けた。 『悪夢を食べるといわれる架空の生物、獏にちなんでこの名前がつけられました』 「悪夢を、食べる……?」  それは、どういうことだろう。悪夢を見てしまっても、その獏が食べてくれるということだろうか。  それなら、悪夢がまだあった時代には、すごくありがたがられてたのかもしれない。 「ありがとう、ワカル」  私はスマホを閉じて、目の前のバクに向き直る。  すると、バクはゆっくり目を開いた。
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