Memory 2. 「疎」の姿

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 俺の記憶と呼べるのはゴミ山から現在までに見知ったものくらいだ。俺はクジョウの確認を即座に了承した。 「もう一つ。ジオがお前の安全性を確認するまではこの手錠を付けていてもらう」 「それも構わない。そちらからすれば当然の自衛策だ」 「よし」  クジョウは手枷を鉄格子の間からこちらに放り投げた。 「ポール、そいつに手枷をはめろ」  クジョウに言われるまま手枷を拾うと、ポールは俺にそれをはめようとした。 「ありがとうポール。案内の謝礼を渡しておくよ」  俺は手に持っていたプロセッサとメモリモジュールをポールに渡した。  ポールはそれをポケットにしまい込むと、うれしそうに「幸運を祈ってるぜ、ロボ公」と言って俺に手枷をはめた。  クジョウが手で合図を出すと鉄格子は横にスライドし、俺は集落の中へと足を踏み入れた。 ◇  そこは工具と機械と鉄くずとが同居する雑然とした場所だった。  倒壊した建築物に鋼材をパッチワークして作ったようなその小屋で、ジオと呼ばれる眼鏡を掛けた初老の男は俺を見るなりこう言った。 「名前は?」 「FMIタイプ901-EX3-9-1。シリアルナンバー00001」  俺はシステム情報内にある自身の機種番号と製造番号を包み隠さずに言った。 「そうじゃない、お前の名前だよ、なまえ」 「人間的な名前は無い」 「無いのか、そりゃ具合が悪いな……」  白衣と呼ぶのもはばかられるような、油汚れにまみれた衣服を着るこの男は、俺の体をなめ回すように見ながらポンポンと自分の後頭部を叩き出した。
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