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なんでもないように彼は、水をごくごくと飲んだ。
「そろそろ寝るか」
「そう、だね」
別々でなんて主張ができるわけもなく、一緒のベッドに入る。
「……純華」
すぐに、矢崎くんから押し倒された。
熱を孕んだ目が私を見ている。
仮にも夫婦になったんだし、彼がそういうことをしたいのはわかる。
――しかし。
「……ごめん」
短くそれだけ言い、顔を背けた。
「いや、いい」
淋しそうに笑い、彼が私から離れる。
そのまま、並んで布団に潜った。
「別に好きあって結婚したわけじゃないんだし、急には無理だよな」
「……ごめん」
きっと、矢崎くんが会長の孫だと知らなければ、受け入れられていた。
だって私は矢崎くんが嫌いというよりもほのかな恋心は抱いていて、ここに来るまではそれなりに幸せな気持ちだった。
「少しずつでいいから、俺を好きになってくれたら嬉しい」
「……ねえ」
寝返りを打って彼のほうを見る。
「なに?」
すぐに彼も私を見た。
薄暗い中、艶やかに光る彼の目が私を捉えている。
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