討伐前の外野の計画

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討伐前の外野の計画

ミンタニアのティグラートの屋敷に、ロンがやって来ていた。 ティグラートの自室にて、ロンとプテリュクスと共に翌日の事について話をしていた。 レオノーラが行う討伐計画についてだ。 ロンに事前にレオノーラの所に出向いてもらい、竜帝騎士団が介入出来る手筈は整えた。 カーチスとプテリュクスで話を進め、レオノーラの護衛にプテリュクスの影を配備した。 それでもティグラートは落ち着かない。 当たり前だ。出来ることなら自分が出向きたかった。 レオノーラの前に出ずとも、討伐の手伝いが出来たのならどんなに良かったか。本当の気持ちを言えば、レオノーラが手を下す前に叩き潰してしまいたい所だったが、レオノーラの実績にならない。 そして極秘で傭兵に潜むには、ティグラートの存在感、魔力量のせいでそう出来なかった。 いるだけで威圧感があるティグラートは、密偵にも向かない。 ティグラートは何度目かの溜息をついた。 「…落ち着け…。出来ることはした。」 「…分かってる。人に任せるしか出来ない事くらい……」 ロンに言われ、ティグラートは答えた。 自分は人の上に立つには狭量だ。元々上の立場にいたい訳ではなかったが、ティグラートは自分を改めてそう判断した。 「…しかし…レオノーラ嬢。魔力量が増えていたぞ。以前にも増して、魔力が溢れていた。…今後を考えると対策を練らないとな…」 ロンは先日会った時に思った事を告げる。 ブリガンテが言った、色無しの魔力を保持しているという危険性について、いよいよ考えなければならない。 「…そこはまぁ、ロン様にお任せして、我らは先ず討伐の健闘を祈るしかないですね」 プテリュクスは、先の話より今の事と言わんばかりに話を戻す。 「失礼します」 ティグラートの自室にノック音が響き、中に1人の男が入ってきた。 竜帝騎士団の副団長を務めるフィラカス・ガルディ・クストーテだ。 彼は風を主に、水と闇、3つの魔力属性を持つ男だった。 レオノーラは色無しの魔力の為、魔力での武力行使が出来ない。しかしロンの認識阻害の魔術具が、彼女の魔力に僅かな水魔力をもたらしている。 ロンは敢えてその事をレオノーラには言っていなかった。 勿論僅かな効力しかなかった事も理由の一つだったが、元々無いものとして今まで生きてきたレオノーラが、万が一でもその事を知り驕る事を懸念しての事だった。 性格や生き様を知った今となっては杞憂であったと思えるが、ロンは色々な不測の事態を想定して物事を行う質だ。 今後は逆に、その僅かな水魔力を帯びて放たれる光属性の魔力について熟考しなければならなくなった。 レオノーラは、現時点でロンの魔術具からの水魔力がある。 そこで相性の良い風魔力と同質の水魔力を持ったフィラカスを傭兵として送り出すことにした。 元々騎士団の副団長を務める実力を持った男だ。 そしてプテリュクスの下で育てられた男でもある。陰謀偽計はプテリュクスを初めとしお得意だ。 「…我が主の望みは我が望みです。主の御心の杞憂を晴らすべく、我ら竜帝騎士団を一考に入れて頂いた事、光栄に存じます。」 ティグラートの前まで歩み寄り、フィラカスは膝を折り頭を下げた。 「我らは主の手足となり、時に貴方様の刃となる。ご命令を。主の願いの為に勇往邁進し、必ずや実現致します。」 「…立て…フィラカス…」 ティグラートの命に従い、フィラカスは立ち上がった。 そのフィラカスの手を取り、ティグラートは己の額に当てた。 「…ティグラート様!…家臣にそのような…」 「…フィラカス…」 慌てて止めるフィラカスの言葉をティグラートは遮る。 「…私の我儘に付き合わせる…。…頼む…」 決して大きな声ではなかった。しかしティグラートの想いが含まれた声はより一層、フィラカスの忠義を増すものとして耳に届いた。 ティグラートは元々、ミンタニアの領地や竜帝騎士団を取り仕切っているつもりのない男だ。領民や騎士団に対しても自分と同等だと考えている。 周りが持ち上げるから仕方なく付き合ってくれているだけと、フィラカスは知っている。少しくらい驕り高ぶる事も覚えて欲しいくらいだ。 しかし今回は、自らが動けない。普段は上の立場にいたくないティグラートが、自分の願いを叶える為だけに竜帝騎士団を動かそうと言うのだ。 「…普段…我らに見せ場を頂けない貴方様からの願いを聞き遂げらずにいるなど、到底有り得ないでしょう。今こそ我らの忠義を見届けて頂きたい。」 フィラカスの言葉に、ティグラートは頷いた。
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