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その浩紀を恨みのこもった目で睨み、
「……私も見る目がなかったのね。あなただけは今までの彼氏とは違う、麗子になびいたりしない……そう思っちゃったんだから」
出会ったころ、浩紀の少し強引で我が道を行くところに魅力を感じてしまったのが間違いだったのだろうか。
不器用で、まっすぐで、自分がこうと決めたら譲らないところ。
妹に振り回され続けた自分には、それが眩しく見えた。
だけど――それがあだになった。
「あなたの母親のおむつまで変えたのに、介護が終わった途端に平気で捨てるわけね」
結婚してすぐに、不慮の事故で体が不自由になった義母の介護が始まった。
長い介護になった。
子供を持とうという余裕すら持てなかった。
義母が亡くなり、ようやくこれから夫婦の時間ができる……と思っていたのは温子だけで、浩紀は必要がなくなった妻を切り捨てたのだ。
温子の言葉に、浩紀の顔が一瞬強張った。
だが、温子の目は見ず、大きなガラスの外に顔を向けた。
「すまないとは思ってる。――でも、こういうことになったんだ。もう、俺のことは忘れてくれ」
どれだけ勝手なんだろう。
私のこの10年近くの時間はどうやったって償えないのに。戻らないのに。
温子はテーブルの下で両手をきつく握りしめた。
「……頼まれたって思い出さないわよ。慰謝料もきっちり払っていただけましたから」
夫から300万円。妹からも300万円。
自宅マンションの権利も温子に移った。
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