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(ごめんなさい。僕が現れて、ふたりの仲をめちゃくちゃにしちゃったんだ……)
颯は可愛くない、暗い、コミュ障の3Kが揃った出来損ないオメガだ。対して佐江は誰もが振り返るくらいの美しい容姿。周囲にもチヤホヤされるタイプのオメガだ。
諒大も気の毒だとは思う。せっかくの運命の番が、面白みもなんにもない貧乏くじオメガだったのだから。
地味オメガが、王子様みたいなアルファと結婚できるわけがないのに、運命の番ということに甘えて浮かれていた自分のせいだ。
意志の強いアルファは、ときに運命に逆らって別のオメガを愛することもあると聞いたことがある。
運命だからって、二十年来のふたりの絆は引き裂けなかった。
諒大も悩みに悩んだ結果なのではないか。運命に惹かれながらも、すぐそばには幼馴染のオメガがいた。
最初から、釣り合う相手じゃなかった。諒大には結ばれるべきオメガがいた。それに気がついていたくせに、運命の番だからって諒大の隣で偉ぶっていた自分自身が恥ずかしくなる。
「わかり、ました……」
颯は静かに頷く。涙は出てこなかった。人に捨てられることには慣れている。捨てられた記憶がまたひとつ増えただけだ。
そう思い込もうとするのに、変に動悸がしてきた。胸が苦しくなって、キーンと耳鳴りがして、周りの音が聞きとれなくなっていく。
「……でっ……! はや……さんっ!」
目の前の諒大が話している声もよくわからない。
これはなんだろう。颯は納得して結果を受け入れるつもりなのに、身体はどうして不調を訴えてきて、胸が苦しくなるのだろう。
(今さら忘れられるかな。こんなに好きになっちゃったのに)
こんなことになるなら、運命なんかに出会いたくなかった。好きになるんじゃなかった。
人の恋路を邪魔する気なんてない。
もう、諒大のことは諦める。諒大と佐江には幸せになってほしいから。
運命の番は好きにならない。さよなら、僕の運命。
「あっ……!」
颯は諒大に振られたことばかり考えていて、雨上がりの水たまりに足を滑らせ、目の前の階段を踏み外した。そこからは目の前の景色が暗転した。
颯は頭から地面に落下し、長い階段を転がり落ちていった。
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