28、前世編おまけー和歌と透夜ー

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28、前世編おまけー和歌と透夜ー

「陽葵和歌さん」 背後から声を掛けられ、振り返る。 身嗜みの整った綺麗な女性。 確か、調理担当の女中だったと、和歌は記憶していた。 「いきなり声を掛けて御免なさいね」 「いえ、何か?」 「随分と、透夜に気に入られている様ね」 「そう、ですね。仲良くさせて貰ってます」 「夜も、かしら?透夜が、色欲を満たす相手を一人に絞るなんて、随分と相性が良かったのね、貴女達」 「下衆な事を伺ってくるんですね」 「あら、何にも卑下する事じゃないわ。人間に備わっている性だもの」 「そうだとしても、人の事情に易々踏み込むのはどうなのでしょうか」 「ふふ、そう睨まないで。ちょっと悔しいから、意地悪したくなっちゃっただけなの。全くもって、貴女の言う通りだわ、御免なさいね。最近、透夜に声を掛けても、ぞんざいにされるだけだから、少し妬いちゃったのよ。ま、今日も振られる覚悟で、声は掛けてみるけど、それじゃぁね、可愛い忍さん」 女中は、綺麗な笑みを残し、踵を返して行った。 ***** 透夜が自分を求めるのは、先程の女中が言っていた通り、性の対象として偶然相性が良く、気に入られただけに過ぎない。 それは誰に言われずとも、和歌自身も十分理解している。 だけど改めて突きつけられると、気分が物凄く沈む。 和歌はブンブンと首を振り、余計な思考を追い払う。 ーーーー自分は忍だ、真子姫様の護衛。透夜さんに抱かれるのも仕事の一環で、けして現を抜かしているからじゃない!! 日々頑張っている男性が、草臥れず元気で居られる様、褒美として身を捧げるのも、女の忍としての立派な務め。 と、忍びの里に居る頃、近所のお姉さんがワクワク笑顔で話してくれていた。 ーーーーいわば、透夜さんが日々健康元気に真子姫様の身辺を守っていられる様に、私は透夜さんの心身の労いをさせて貰っているのだけで、私欲で抱かれている訳じゃない、これは仕事、うん!! 「和歌」 「は、はい!!」 意中の男性が急に目の前に降り立ち、思わず上擦った声で返事をしてしまう和歌。 「悪い、驚かせたか?」 「ちょっと考え事をしてました。忍びとして情けないですね、常に緊張してないといけないのに」 「気にするな。たまに気を休めるのもいいさ」 透夜の手が延び、なでなで、頭を撫でられる。 心地良い気分になり、へにゃりと力ない笑顔が和歌から落ちた。 「・・・和歌、今夜、相手願えないか?」 何度誘い言葉を貰っても、一向に慣れず、やはり照れてしまう。 お誘い、お受けしたいけれど・・・。 「その、今日は、御免なさい、月のものが来ていて」 「そうか、別に謝る必要はない。体、冷やさない様にな」 強弱ないぶっきら棒な言い様だけど、思い遣りのある言葉。 去ろうとする透夜の右手を、和歌は両手で掴む。 さっきの女中の言葉が、ふと頭を過ぎる。 ーーーー今夜は、あの女の人を抱くの? 「和歌?どうした?気分でも悪いのか?」 「・・・・っなら」 「和歌?」 「口、でなら」 物凄く小さな囁き声になってしまったが、自分はなんてはしたない事を言ったのだろうと、穴があったら今すぐに飛び込みたい心境になる。 和歌は泣きそうな顔で、耳まで真っ赤に染まる。 「ご、ごめんなさい、やっぱり無しですっ聞かなかった事にして下さい」 透夜を握っていた手を離し、言い逃げしようとしたが、背後から透夜の片腕が胸下に回され捕まる。 「逃げるな」 「・・・今は、逃して欲しいです」 「和歌の親切を無駄にするのもなんだし、今夜は和歌の小さな口で、奉仕して貰うのもいいね」 耳元でそう囁かれ、和歌は腰が抜けそうになる。 自分で提案しておきながら、了承されると、初心者の自分には時期尚早な熟練技な気がして、怖気付いてしまう。 でも、これも仕事仕事仕事!と怯える体に言い聞かす。 「冗談だ、無理しなくていい」 「だ、大丈夫です、で、出来ます!」 「なら、今夜は沢山の口付けを、和歌にさせて貰おうかな」 「え?」 「嫌か?」 首を振る。 嫌いな訳ない、むしろ・・・透夜との口付けは毎度、頭がふんわりボヤけて上下左右前後が分からなくなる程、気持ち良くさせられる。 「じゃ、また今夜、いつもの隠し部屋で」 和歌に絡めていた腕を離し、触れるだけの口付けをすると、透夜は廊下を闊歩していく。 全身が煮立ち、和歌は暫くその場から動けずにいた。 .
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