1、和歌

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1、和歌

それは夏休み、父の実家に帰省中での事。 集まった従兄弟達と、夜更かし中に怪談話を楽しんでいた。 雰囲気作りで用意した、蝋燭の火だけが唯一の光。 和歌は、ゆらゆら揺れる火をただ眺めていた。 だけだったのに・・・脳裏に、突如注がれる記憶。 和歌は、思わず奇声をあげて飛び上がる。 「な、なんだ和歌、そんなに怖かったのか?珍しいな、お前がビビるなんて」 自分に何が起こったのか理解出来ず、その場から走り出していた。 涙が溢れ止まらない。 ***** 忍者、それが私の前世の職業。 いわゆる落ちこぼれの使い捨て忍者で、仕えていた姫様の世話役兼、いざと言う時の盾となるのが、私の役目だった。 姫様には私の他にもう一人、護衛に当たる忍者がいた。 私より3つ上の先輩忍者、私と違い優秀で、姫様の幼少時代からお側に仕えている人。 私はその人に惹かれた。 しかし任務で姫に仕えている身、現を抜かすなんて以ての外だ。 私の最後は、焼き落ちていく城の中だった。 強国に攻め込まれ、城を焼かれたが、姫様だけは無事逃がす事が出来た。 私は姫様を逃した後、黒煙上る城に戻った。 姫様と私を逃がす為に囮となったあの人が残っていたからだ。 『なぜ戻った!姫様の側に居るのがお前の勤めだろ』 第一声に叱られた。 壁に凭れか掛かり、床には血溜まり。 この人はもう動けない。 城と共に落ちていくのだろう。 本人ももう覚悟している。 けれど、この人の瞳はいつもまっすぐで芯の通った力強さがある。 こんな状況でもそれは変わらない。 『・・・怒鳴ってごめん。おいで、和歌』 呼ばれたので近寄り膝を付いた。 静かに延ばされた腕に、引き寄せられ抱きすくめられる。 『生きて欲しかったよ、お前にも』 もう逃げ道などどこにもない、城は敵国の兵が周囲を囲んでいる。 私は弱い忍者だ、この人ほどではないけど私もボロボロだ、一人では逃げられない。 捕まれば捕虜となり、何をされるか分からない。 拷問されるか辱めを受けるか。 それは、この人も分かっている。 あぁ、私の髪を撫でてくれる手が温かくて優しい。 『ようやく、言える』 いつも凛としていた声が小さく弱く、耳に届く。 聞き逃さない様に、その声を待つ。 『・・・好き、だった。妻に、迎えたかった』 なんて言葉、最後に残すんだろうと思う。 願わくば貴方と、と何度思ったことだろうか。 私はただ、後輩忍者として側に入れたら、それで満足だった。 .
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