4人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
2、和歌
陽葵和歌。
前世と同じ字で同じ響きの名前。
憂鬱さを覚えながらも、和歌は白兎高校、2年F組の教室へと入る。
いつも通り、賑やかで騒がしいクラスだ。
男女共に仲が良い。
今日は朝一のホームルームで、学園祭の出し物についての話合いがある。
それもあって、今日は何時にも増してそわそわと落ち着きがない。
和歌が席に着くと、前の席の赤坂菜穂が和歌へ「おはよう」と声を掛けながら振り返る。
和歌とは、1年の時も同じクラスだったよしみから、話す機会が多い子だ。
「ねぇ知ってる?龍崎君、また告白されたみたいだよ。まぁ案の定、振った様だけど。そもそも、龍崎君には真子が居るしね」
「そうだね」
龍崎透夜。
1年の時は別クラスだったが彼の噂は耐えず和歌の耳にも届いていた。
見た目よし、成績も優秀、運動神経抜群。
何処か達観した冷静さを見せる透夜は、今期二学期からは強い推薦を受けて生徒会副会長の座にも付いている。
そんな彼は当然もてる。
無謀な挑戦者達が後を絶たない。
噂で聞いた限りでは、透夜は自身の幼なじみの紺野真子と付き合っていると囁かれている。
面倒見が良く、穏やか清楚な雰囲気を纏う真子もまた、白兎高校では知らない者が居ない程に人気だ。
透夜と真子は、一緒に見掛ける事が多い。
とても絵になる似合の二人だ。
そしてこの二人が、今の和歌を憂鬱にさせている原因でもある。
透夜は、前世の想い人。
真子は、仕えていた主人。
和歌と同じく、名も姿形も、前世と瓜二つ。
今の和歌とは、ただのクラスメートであり、挨拶程度の差し障りない関係性を築いている。
前世の記憶が戻ったからなのか、感情も当時に影響され、和歌は無意識に二人の所在を探す様になってしまった。
*****
「陽葵ちゃんさ、良かったら此処で働いてみない?看板娘やってくれると嬉しいんだけど」
そう緩やかボイスで和歌を誘ってきたのは、喫茶店「茶々介」のオーナーの春。
和歌は今、春の出してくれたココアで喉を潤わせていた。
白兎高校からの通り道にあるこの店に、和歌はよく通っている。
目的は、甘い物の接種もそうだが、こうして春と会うのも和歌の目的の一つだ。
優しい雰囲気と笑顔を醸す春の事を、和歌はとても好んでいる。
ここ最近の、激しく揺れる感情を少しでも鎮め、気を紛らす為にも、働くのはいいかもしれない。
時間が空くと、厄介な事にどうしても真子と透夜の事を思い浮かべてしまいがちである。
「是非、働かせて下さい」
「ありがと。一応、親御さんの許可もとってからまたお返事くれるかな。大事な娘さんをお預かりする訳だからね」
「はい、分かりました」
.
最初のコメントを投稿しよう!