29、遊園地デート①

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29、遊園地デート①

「和歌、明日の日曜日さ、この前約束した遊園地行かね?」 文化祭から、家まで送って貰う暗い道中で、突然の透夜からのお誘い。 おそらく、キャンプファイヤーで調子を悪くした自分を元気付ける為のものなのだろうと、和歌は思う。 「是非、行きたいです」 「よし、決まりな」 「では真子さんも」 「二人で、って約束だろ。一応、真子にも、和歌を借りる旨の連絡はしとくけど」 「あの、でしたら龍崎君にお願いがあります」 「何?」 和歌の出した提案に、透夜は渋りながらも了承した。 ***** 和歌は自宅に帰るなり、ニつ上の兄、世津(セツ)の部屋に飛び込んだ。 世津は、女装趣味の女子力高い系男子である。 幼い頃は、和歌と性別を間違われる事がしばしばあった。 「せっちゃん、お願い、洋服貸して、そして見立てて」 「おかえり和歌、文化祭楽しかった?」 「うん、楽しかっ・・・えっと、微妙かな。今はそれよりも、洋服貸して、お願い」 「はいはい、取り合えず説明しな、和歌」 「明日、クラスメートの子と遊園地行く事になったんだけど、来て行く服がない」 「・・・」 和歌が持っている服はどれも、気安くボーイッシュなものが多い。 この前、中学の時の同級生と遊園地に出かけた際は、いつものカジュアルな普段着で、楽しそうに出かけて行ったと言うのに・・・兄として、妹のヘルプに色恋センサーが冴え渡ってもこれは仕方ない。 「和歌ちゃん、男の子とデートでもするの?」 「っ」 正解の様だ。 頬を染めて、困り顔で、紡ぐ言葉を探してる。 妹の恥じる表情なんて初めて見たーーーー我が妹ながら天才的な可愛いさよ。 「世津お兄様に任せなさい。折角のデートだもんな、そりゃあ可愛い服着て、男の子の隣を歩きたいよな。さてさて、和歌は何色が似合うかなぁ~」 「デェトじゃ、ない」 世津は楽しそうに、クローゼットからポイポイ服を放り出し始めた。 ***** 遊園地と言う事で、動きやすくクリーム色のスニーカーに、膝上5センチで揃えられたキャラメル色のスキニーパンツ、上は白色のタートルネックセーター。 全体的に淡く清楚な雰囲気に仕上がっている。 世津により、薄く化粧も施された。 和歌本人は、世津コーデの良し悪しは余り分かっていないが、着慣れぬ服装に気恥ずかしさはあった。 透夜の要望で、東達中学同級組と行った遊園地とは別の遊園地へと、和歌は訪れていた。 一番の目玉は大きな観覧車、静かにゆったりとゴンドラが動き、一回り三十分と、長い時間空中散歩を楽しめる。 和歌が遊園地に着くと、待ち合わせ時間のだいぶ前だと言うのに、目的の人物は既にいた。 懐かしい物憂げな横顔に、トクンと胸がなる。 和歌は静かに呼吸を落とし、目を閉じ、気持ちを切り替える。 ただ、龍崎透夜の事が大好きな女の子に。 「透夜さん」 近づきながら名を呼べば、透夜も振り返る。 和歌と目が合うも、その表情は一切変わらず、静かなもの。 「和歌、おはよ」 透夜から流れる声のトーンも、柔らかくて大人しい。 「おはようございます。随分と早いんですね。まだまだ時間には余裕がありまくりですよ」 「人の事は言えないだろ」 伸ばされた手が、和歌の頭を優しく撫でる。 和歌は嬉しそうに笑顔を咲かす。 昨夜した、和歌のお願い事、それはーーーー「前世の自分達で、遊園地を満喫しませんか?」 「今日は楽しみましょうね、透夜さん」 「はしゃぎ過ぎて逸れるなよ」 「もぉ、年下扱いは禁止です」 「年下、だろ?」 「うっ、そう、でしたね」 .
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