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1. 成人式
初夏の訪れを感じる5月。
「ついに大人か。もう悪いことできなくなるな」
そう言ってニシシと笑うのは近所に住むトシ。小さい頃からの仲のいい友達だ。
「いや、大人じゃなくても悪いことはダメだろ」
「ゼンだって一緒に保育所の先生の顔におならを放った仲だろ」
どんな仲だよ。
ほかにも女子のパンツの色当てゲームをしただの、先生に浣腸しただの、懐かしくもくだらない話をしながら成人式が行われる会場に近づくと、入場ゲートが見える。
「案外普通っぽいのな、特殊能力持ち」
ボディーガードと思われるゴツい二人に囲まれた真ん中にいる男性。
確かにトシの言うとおり普通の男性という感じだが、たぶんそうなのだろう。L-SAMO(特殊能力管理機構)の制服を着ているからわかる。
年度内に18歳になる者が集められて行われる成人式の会場入口では、参加者が二手に分けられる。
それは特殊付加能力のある者とない者。
付加能力のない者は式典に参加して偉い人の話を聞いて「成人おめでとう」と言われて終了。対して付加能力のある者はお告げみたいなのを聞いて、その能力がその場で授けられるらしい。
『らしい』というのは俺の周りにいるのは『ない者』の部類ばかりで、噂でしか聞いたことがないのだ。
そして勉強もスポーツも身長も体重も顔の作りも平凡で特に何の意志も意欲もない俺は、当然『ない者』に分類されるのだろう。
そう思っていたのに――
「あぁ、君はこっちだね」
そう言ってL-SAMOの制服の人は、俺に付加能力のある者が進む入口を示す。
「はい?」
どうやらこの人『付加能力の有り無しが判断できるスペスキ持ち』らしいのだが……いやいや、どう考えても間違えてるんじゃないの?
そう思いつつも有無を言わさずお告げコースに導かれた俺は、何が何だかわからないまま講堂へ連れて行かれた。
……え?
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