皇女様は断罪されました1

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皇女様は断罪されました1

「テシア・フォン・デラべルード、お主の皇族としての身分を剥奪する! さらには国外追放とする。もう二度とデラべルードの地を踏むことを許さん」  デラべルードの皇帝であるシトラレン・フォン・デラべルードは重たい刑をテシアに下した。  重要家臣、多くの貴族が集まる貴族裁判の場で言い渡された判決。  テシアはうっすらとした笑みを浮かべたままに真っ白な髪を揺らして頷いてそれを受け入れた。  テシアにかけられた容疑は聖女の暗殺未遂。    聖女の飲み物に毒を混ぜて殺そうとしたのである。  テシアの父でもあるシトラレンが下した判決に貴族たちのざわめきが大きくなる。    中には酷い判決だと漏らす人もいた。  聖女は未来の皇帝でもある皇太子の婚約者であり、本来なら斬首刑でもおかしくはない。    その点でいけば軽い処罰のようにも感じる。  しかし皇族が皇族たる身分を剥奪の上で国外追放されるなど死ねと言っているのと同じ。    特に生きていくためのスキルも持たない皇女であるテシアならなおさら残酷な処罰であると言ってもいいのだ。  あえて放逐するような刑を課すならばいっそのこと斬首刑で終わらせればいいのにとも思う人はいるのである。 「お待ちください、父上!」  しかし誰も皇帝たるシトラレンの判決に異議を唱える者はいない。  そう思った瞬間1人の青年がテシアの前に出てシトラレンに向かって膝をついた。 「どうかお考え直しを!」  まだ声変わりしたばかりの成人にも満たない青年は胸に手をついてテシアの判決に異議を唱えたのである。 「お姉様はこの国のために働いてくれていました! 確かに重罪ではありますがこれまでの功績を考えると酌量の余地はあるはずです!」  シェジョン・フォン・デラべルードはデラべルードの第三皇子である。  テシアの弟であり、テシアもよく可愛がってもいた。  この場における人たちの中で判決に異議を唱えられる数の少ない人でもある。  下手すると皇帝の反感を買うかもしれないのにそれでもシェジョンはテシアのために真っ直ぐにシトラレンの目を見つめた。 「判決は変えん」 「父上……!」 「まあ待ちなさい、シェジョン」  シトラレンはシェジョンを手で制する。  判決に真っ向から異議を唱えたのだ、怒り出してもおかしくはないのにシトラレンは怒った様子もない。 「今回のテシアの件について教会から申し出があったのだ」 「教会の申し出ですか?」 「そうだ。マリアベル大主教」 「はい」  席に座っていた女性が立ち上がる。  かなり背が高く服が弾けんばかりの肉体をしている。  見えている腕も鍛え上げられていてファイターだと言われても多くの人がそのまま信じてしまうだろう。  マリアベルは恭しく一礼するとテシアと視線を合わせた。 「今回の事件は非常に重たい罪となります。ですがシェジョン皇子の言う通りシエラ皇女の行いには救われた者もいます。日頃教会にも通い、敬虔な御心もお持ちの方です。  そのために教会にて魂の救済を申し出させていただきました」 「魂の……救済?」  聞きなれない言葉にシェジョンは首を傾げた。 「そうです。今皇女様の魂は冒した罪により穢れてしまっております。そのため皇女様の御身を教会で預からせていただこうと思いました」  貴族たちのざわめきが再び大きくなる。 「テシアは国を出て教会に身を寄せることになる。これからは1人の修道女として罪を償っているのだ」  テシアの罪は大きい。  しかし事情は複雑なのだ。  テシアが毒殺しようとした聖女はまだ婚約者であり完全には皇族ではないこと、テシアの功績が大きいこと、だからといって皇族だからと甘い処分にも出来ないことなど絡み合う事情にシトラレンは頭を悩ませた。  そこで話を聞きつけたマリアベルの提案をシトラレンは受けた。 「これ以上減刑の余地はない。分かったか、テシア」 「はい、お父様。ご寛大な処置に心よりお礼申し上げます」 「そんな……姉上!」 「シェジョン……いいのよ」  どうしてそんなにすました笑顔を浮かべられるのですか。  テシアは笑っていた。  シェジョンは喉元まで出かかった言葉を飲み込む。 「3日の準備期間を与えよう。その後はこの国を出ていくのだ。これにて貴族裁判を閉廷する」  テシアは騎士に付き添われて出ていく。  シェジョンも追いかけようとしたけれどシトラレンが動かないので動くに動けない。 「よい、皆のもの、先に出ていくのだ」  シトラレンの言葉を受けて終始無言だった第一皇子が出て行った。  それに続いて高位の貴族たちも様子をうかがうように動き始めて、シェジョンも部屋を出た。  次々と人が出ていき、シトラレンは残った兵士も追い出した。 「……父上」 「なぜだ、テシア……」  場に残されたのはシトラレンと第二皇子であるデゴロニアンだった。  シトラレンは右手で顔を覆うとゆっくりと首を振った。 「私には分からない……なぜあの子がこのような凶行に及んだのか。テシアがサハルエンをよく思っていないことは知っていた。だが毒殺までするほどとは」  シトラレンが盛大にため息をついた。  テシアと聖女サハルエンとの関係については耳にしていた。
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