16人が本棚に入れています
本棚に追加
/95ページ
サイレンが、近づいて来る、
野次馬のざわめきが、
耳に、より溢れる、
軽トラックのドァが乱暴に開き、
中から、這いずりながら、運転手が、
出てきた、
男の額から、僅かに血が流れている、
ドァから、出てきた男は、半開きのドァ前に立ち、左右に、大きく頭を振った、
虚ろな目が、廻りを見渡している、
囲む群衆の中、
男の虚ろな目が、私を捉えた、
「…お、お嬢さん、申し訳ありませんでした!」
軽トラックの運転手は、ふらりと
身体を揺らし、私に走り寄る、
私は、
-じりじりっ-と後ずさる、
男は、
私の足元で、縋るよう、アスファルトに手をつき、頭をこすり付ける、
「本当に、申し訳ありませんでした!」
-わぞとらしい-
単純に、感じた感情だ、
この男は、
卑怯者だ、
己の過失を、消そうと、無かった事にしようとしている、
罪から逃避する為なら、何だってする、
懇願している素振りだけ、本心なんかじゃない、
「…偽善者」
私の口が、軽トラックの運転手に、小さく放った、
たしかに、
今回の事故に、人的な、肉体的被害者は、いない、
轢かれそうになった私、
壊れ削れたブロック塀、
壊れた、軽トラック、
結果的に、誰かが巻き込まれ、人間がが死んだ…
そんな事実はない、
しかしそれは、あくまで、結果に過ぎない、
-私は、この男に、殺されていたかもしれない-
突然、襲ってきた、現実感、恐怖感、身体の震えが、とまらない、
「あんたが起こしたのよ!」
「あんたが起こしたのよ!」
「あんたが、私を轢き殺そうとしたのよ!」
私の喉が、込み上げる怒りを、大声に変える、
「この、事故の現場を、よく見なさいよ!」
私は、叫んだ、狂ったように絶叫した、
パパに、強く抱きしめらる、
自分で、抑えられない、この昂ぶる感情、震えのとまらない身体、
目の前で、あの野良猫が、
赤黒い血溜まりの中、ぼろ雑巾のように投げだされいる…
私は、
その悲しい姿を、
何か、酷く汚れた物体と感じた、
胸がむかつきだす、
胃が締めつけられ、その場に、しゃがみ込んだ、
-ウ、ウゲェーッ!-
胃の中身を吐き出した、
汚物を吐き出した唇から、
よだれが、細長く糸を引き、アスファルトに垂れている、
アスファルトについた、私の左手の甲に、涙がすまなそうにこぼれ落ちた、
最初のコメントを投稿しよう!