超・妄想【エイプリルフール】

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チキンも欲しいの? と透くんが言う。欲しくて見てたんじゃありません、と私は付け合わせのコーンをフォークですくう。 「高校生になって、急に綺麗になったからさ。恋でも始めたのかなって思ったんだけど」 「そんな、冷やし中華みたいに……」 コーンがぽろっとこぼれる。 透くんは皿に盛られたごはんもきれいに食べていく。普段からフォークでごはん食べてるのかなって思うくらい、仕草があまりに自然だからさっきから自分が不器用に思えて仕方ない。 「恋だって始まってませんから」 「真美ちゃんも高校卒業するまでに、彼氏出来ないのかなぁ」 「も、ってなんですか、も、って」 プレートの上で転がったコーンをフォークで追いかける。ナイフで通せんぼしてやっと捕まえた。 「え、だってほら、約束したじゃない? おれが高校一年の時だっけ。おれが高校卒業するまでに彼女出来なかったら」 透くんの瞳が、楽しそうにくるりと光る。口元がにやりと歪む。 「おれのお嫁さんになってくれるって、約束。忘れちゃったの?」 その言葉こそ、私を縛り付ける呪いのようなものだ。べつにそんな約束があったから、今まで恋人がいなかった訳じゃないけど。 「そ、そんなの……透くんが、言わせたようなものじゃないですか……っ」 カッと顔が赤くなったのを感じる。小学生の時に透くんとおままごとをしていて、確かにそんな事を言った。いや、言わされた。今みたいな、にやにやと面白いおもちゃを見つけたみたいな、それを観察するのが楽しくてしょうがないみたいな顔で。 「だいたい透くんだって、なんで彼女の一人や二人出来ないんですか? 今だって……」 そこまで言ってから、ハンバーグを二口続けざまに頬張る。だめだ、だめ。透くんになに言ったって、けらけら笑って誤魔化されて、冗談で上書きされるんだから。 昔から口が達者な透くんは、学校でだって人気者だったはずだ。今だっていわゆるイケメンとは違うけど、見た目はカッコイイ方だし、優しさだってある。男友達も女の子の友達もたくさんいるだろう。一緒にいる人を楽しませてくれる話題を選んで、冗談は言っても人を傷付けるような事は言わない。 そんな透くんに、彼女が出来ないはず……ないのに。 「おれ? そうだねぇ……」 ナイフもフォークも置いたと思ったら、透くんのお皿もプレートもからっぽだった。 ペーパーナプキンで上品に口元を拭って、片手でその口を隠す。頬杖を付くみたいに、ちょっと行儀悪く肘をついた姿が、無駄に様になって。行き交う窓の外の人達を、透くんの視線が追う。誰かを探すみたいに。 あ、誰かを思い出してる。 ……誰かを、想ってる。 そう分かるくらい、珍しく素直な眼差しを、透くんはしていた。
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