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透くんは私の頭をそっと撫でながら、微笑んだ。
「素敵なエイプリルフール、ありがとう。真美ちゃん」
「待って、待ってください。何か……」
おかしい!
私はポーチにしまいっぱなしのスマホを取り出し、日付を確認した。四月一日。間違いない、確かに今日はエイプリルフールだ。でもなんで、こんなに胸騒ぎがするんだろう。
「真美ちゃん。知ってる? エイプリルフールってね、嘘を言ってもいいのは、午前中だけ……なんだって」
わざとらしくネタばらしをする透くんは、人差し指を唇にあてて、微笑む。私は慌ててもう一度スマホを見た。
12:50
もうすでに、五十分も午後だった。
「い、いや、透くん? そんなの知らないです、そんな話、聞いたことないですよ!」
「確かねぇ、イギリス発祥らしくてさ。今までの日本の常識だと、四月一日の二十四時間以内に嘘を言ってネタばらししましょう、ってのが社会通念っていうの? だったけど」
最近は午前中だけ、が浸透してきてるんだって。と、透くんはにやにやと笑う。
その笑みを見ながら、私は奈落の底に落とされた感じだった。
やられた。また言わされた。気を付けてたのに、気を付けてたのに!
悔しくて涙が滲んでくる視界。そこに、一番近くに透くんがいた。
「おままごとじゃ、ないよ。でもきれいになったって言ったのは、本当」
囁く透くんの声が、忘れ去っていた甘いココアの味を思い出させて、最後に苦いコーヒーの香りがした。
*end*
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