指が立つ、火が灯る

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 小指を立てる。小さな火が灯る。ほんの一秒か、それ以下か。  私に使える魔法は、たったそれだけだった。  煙草を好まない私に、皆が面白半分で「俺の煙草に、火、点けてよ」と私の小指をねだる。どうぞ、と指を立てる。小さな火が色をつける。人々が顔を近づけて、そっと息を吸う。  何の役にも立たたない私の魔法は、周りから見ても極端に幼稚で、だからこそ皆は私をいつも子ども扱いしていた。 「ユキはメロンソーダでいいよね」  飲み会でも、酒すら嗜まない私はただの皆のライターでしかない。ねだられるままに小指を立てて、火を灯す。時々、灰皿の上で小さく丸めたストローの空き袋を燃やしてみせると、 「わあ」  なんてどうでもいい歓声が上がる。  皆は気づいていないのかもしれないけれど、私は小さいころからほんの一秒、それだけあれば私は彼らを軽くなら燃やしてやることも可能だろうと思っていた。そう、例えばポリエステルの洋服を着たワンピース姿の友人の袖口に、気づかれないままに小指を立てたらどうなるだろうだろう。ちょっとした火傷にもならない可能性のほうが高いだろうか。なんてことをしてくれたんだと怒鳴られて、私は両小指を切り落とされて、二度と魔法を使えなくされるのだろうか。  でも、私は私の魔法を心から気に入っていた。  だって、いざとなったら、燃えたらいいのだ。  この世界の何もかもが嫌になったなら、ガソリンでも被って、私は自らに火を点けることができる。私は私の魔法で、私を殺してあげることができる。  メロンソーダをすする。話しかけてきた煙草くさい男の口元に小指を立ててやる。 「私ね、この魔法、気に入ってるんです」  男に話しかける。 「えー、どうして? こうして煙草なんかに火を点けて、男と仲よくなれるからとか?」  男が馬鹿みたいなことを言って品もなく笑う。 「燃える炎って、綺麗だと思いませんか?」  私の言葉に、男は深く息を吸って、 「あー、うめー」  と言った。
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