その嘘を本当に変えてよ

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私は三沙、18歳。中学は卒業したけど高校は卒業してない。私は自由、私は自由が好き。私がもし明日旅行に行こうと思えば行ける、私がもし明日一日中寝てようと思えば寝ていられる。私は誰にも何にも縛られない。 誰かが言った、「君は愚かで滑稽」だと。 2024年4月1日東京。桜の花が咲き、花びらは舞い踊る。私の心も踊るように弾む。春が来た。私の大切な彼氏の宏崇は「愛してるよ」と言ったのに。でも彼はここにはいない。 彼は「僕は貧乏なんだ」と悲しそうに告げた。だから私は三万円を貸した。だって彼は誠実な男だから大丈夫。例えば彼は無類の買い物好きだけど、私にも豪華なプレゼントをくれるの。見て、ティファニーのペアのネックレス。「二人の愛の証だよ」と私に微笑んでくれた。 「彼は嘘つきだから気をつけて」 友達の亜季が言ったけど、私は彼女を信じなかった。きっと亜季は私の幸せに嫉妬してるだけ。 でも…。私の大切な彼氏の宏崇は消え去って行方不明。私はずっと彼を待ってる。きっと自分が思うよりもずっとずっと昔からここで待っている。 私ってハチ公に似てるね。ハチ公はめっちゃ有名な犬。飼い主が帰って来るまでずっと待ってて、でも、飼い主は死んじゃって帰って来られない。 ね?私はハチ公に似てるよね。でもさ、誰とも喋らない 、何も食べられない、何にも触れない。ああ、やっと思い出した。私さ、2000年4月1日にもう死んでたんだ。嘘じゃなくてこれは本当。紛らわしい日に死んでごめん。なんで死んじゃったのかは覚えてない。ほら、私は馬鹿だからすぐ忘れちゃうんだ。首筋に青アザがついてる?苔と葉っぱだらけ?ああ、そうかもしれない。どこかの山で首を吊ったような覚えがある。 新聞の三面記事で私の顔を見た覚えがあるって?ああ、そうかもしれない。最初は三万円だけだったけど、宏崇にお金を貸すのにちょっと他人のお金を強引に奪って逃げたような覚えもある。馬鹿なだけじゃなく悪い人間だったね、私は。ここから離れたら地獄行き確定。 もしさ、そこにいるあなたが、私の大切な彼氏の宏崇を見かけたら教えてよ。宏崇はバリイケメンなんだ。これが宏崇の写真、よーく見て覚えてね。 「写真が掠れてる」 どこかで声がした、ああ、ごめん。この写真は宝物だから大切に握りしめてた。握りしめ過ぎて掠れちゃったのかも。 宏崇が言った「愛してるよ」の嘘が本当になればいいのに。 私はずっとここにいるから、ここで待ってるから、誰か彼を見つけたら教えてね。寂しくないよ、ここは人が多いから。ハチ公もいるしさ。 (了)
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