婚姻届は覚悟を持って

9/11
801人が本棚に入れています
本棚に追加
/59ページ
 美雨は深呼吸して、ゆっくりと口を開いた。 「……本当に、私が婚約者でよろしかったのですか」 「どういう意味だ?」  嶺人がカップを受け皿に置けば、カチンと固い音が鳴る。食器を強く触れ合わせるなどマナーを仕込まれた嶺人らしくない。その甲高い音は警鐘じみて耳に響き、美雨は細い肩をきゅっと縮こまらせた。 「美波姉様ではなく、私でよろしいのですか……? 今なら、間違いと言ってもまだ間に合います」  美波は嶺人と同い年。年齢としても彼女の方が釣り合いが取れている。  それに何より、嶺人は美波のことが好きで、美波も嶺人が好きなはずなのだ。  美雨に対して責任を取ることを——美波に謝罪するくらいには。 「……何か認識の齟齬があるようだ」  嶺人が大きなため息をついた。美雨はびくりと肩を揺らす。 「俺は望んで美雨を選んだ。美波は関係がない」  優しいな、と美雨の胸が鈍く軋む。怪我をさせた責任感で美雨を引き取ろうというのに、負い目を感じさせまいとしている。気遣われれば気遣われるほど、自分の器の小ささを見せつけられるようで息苦しくなった。 「不安だというなら、今ここで結婚してもいい。もとよりその予定だった」 「えっ?」
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!