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バンッ。
女はテーブルを叩いた。殴る蹴るの男たちが、一瞬で凍り付く。いつでも引き金を引ける女の機嫌を損ねてはならない。男たちは視線を女に向け、言葉を待った。
「整理しましょう。では、真ん中の人にお聞きします」
「えっ、俺?」
「そう、あなた」
女は右の手のひらを、アタフタしている男に向けた。
「あなたは、どんな不快なことをされたのですか?」
「お、俺は、俺は」
全員の視線を一身に浴びた男は、重圧に耐えきれず早口で話し出す。
「別に、なにかされたっていう訳じゃない。皆が行こうっていうから、ついていこうと思っただけ。この人が悪人だとも思ってないし、俺、彼女いないし家族いないし。退屈だったから来たけど、こんなことになるなんて思わなかった」
「フフッ」
口調から幼稚さを感じ、女は静かに笑い出した。
女とは裏腹に、男たちの緊張は増していくばかり。女は軽く拍手した。
「退屈に命をかけられるなんて、うらやましい」
「えっ」
ターゲットを盾にして安心していた男は、無防備に立ち尽くす。そうそう。信念のない弱い人は、自分は大丈夫だって、不思議な自信を持つのよね。
「何事もなく帰られるとでも?」
女からのメッセージを受け取った男は、防護服越しでもわかるほど震えだす。男は、恐怖に勝てず、背を向けて走り出した。
シュッ。
空気を切り裂く音がした後、男の潰れたような悲鳴が響き渡った。
「ウゲエエッ。いだあああっ」
女は、ふくらはぎに沿って隠し持っていたナイフを、男の横腹に命中させた。のたうち回る男の姿を、女は一人で贅沢に鑑賞した。蛇ににらまれた蛙の状態の男たちは、振り返って目視することができない。
「さて」
女は、何事もなかったかのように姿勢を整える。
「ニ十分間、あの人は命の大切さを身を持って知るでしょう。あ、残り十九分でした」
パンパンに張った風船のような雰囲気を壊したのは、やはりターゲット。
「おい、嘘だろ、勘弁してくれよ。あいつ死ぬんだろ?あいつを俺の身代わりにして、逃がしてくれよ。あなたならできるだろう?金はあるんだ」
そうだ、それがいい。
正常な判断もできない男たちは、この場から逃げ出せるならなんでもいいと、保身に走る。
「無理ですね」
「何でだよお」
女は即答。弱音を吐くターゲットの男に、女は追い打ちをかける。
「あちらでも退屈しなくて、よかったですね」
「は?」
「えっ?」
五人の狼狽える姿を眺めながら、女はまた目を細めた。
「顔を知られた以上、生きて返すことはできません」
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