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1 ああ、煩い
────『ならない!』
耳に届いた女の声に眉をひそめる。
怪訝な眉づかいで目を向けた先、『揉めている男女』にもう一度息。どっかりと腰掛けていたそこで座り直し、手の内で新聞を折り畳む。
────『他へお回りください!』『……行かないって言ってるでしょ!』
石畳の上、足を組む。
投げる視線は、冷ややかなもの。
白い壁も眩しい家々の前、色とりどりの服や果実が花を添える、賑やかな露店通り。彼『エリック』は思った。
(ああ、収まる気配がないな)と。
そしてエリックは立ち上がる。ぎゅっと踏みしめた革靴のかかとで石畳を鳴らして、こつ、こつ、こつと、ゆっくりと。
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