人生の寄り道

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「なんでか分からないんだよね、レスになったの。いくらなんでも同棲半年でって。思い当たる節があるとしたら、向こうに元々性欲がなかったとしか…。よくよく考えればほとんど私から誘ってたような気がするし」 「あー、お前性欲強いもんな」  言ってまた俊也が笑う。 「付き合ってた頃はそんなことなかったでしょ」 「あー、どうだっけ。あんま覚えてないんだよなー」  俊也は宙を見上げながら過去を模索しているようだった。 「あ、大丈夫、私も覚えてないよ、全然」  そこまで言って私も笑ってしまった。そんな十年も前のことなど思い出せるわけがない。俊也に対して、本気で好きになった記憶がないのだから。ただ私たちは、なんとなく付き合ってなんとなく別れたんだろうと思う。私は話を続けた。 「ただ、たしか二十代の頃ってくっついていられれば良くて、そこにセックスがあっただけだったから、性欲はなかったと思うんだよね。こんな風にと思うようになったの、それこそ三十手前くらいからだもん」 「そんなもんなんだなー。俺は…どうだろ。昔と変わった気はしてないけど、もしかしたら少し落ちてるかもな、性欲」 「持ち帰るよーってソッコーで返信してきたくせに?」  今度こそ私は噴き出した。言っていることが矛盾していると思ったけれど、私たちは現実逃避がしたいのかもしれないと思ったら、なんだか納得もできてしまった。 「あー、舞子だったから。気ぃ遣わなくていいし」 「分かる、私もそれで俊也に声掛けたんだもん」  正直会うのも五年以上ぶりだ。それでも私たちはなぜか昨日も会ったんじゃないかと思える気楽さで会える。これが元恋人同士の良さなのかもしれない。もし持ち帰ると言われなかったとしてもそれはそれで、楽しい飲み会になっていたことだろう。 「発散だよな、ほんと」  俊也がグラスの残りを一気に飲み干した。私がスコッチの方が美味しいよ、と自分の好みなだけなのだが薦めると、今度はそれを頼んだ。 「なんか、俊也雰囲気が柔らかくなったね。前はもっとおらおらしてたというか、自分が!ってところが強かった気がする」 「あー、それ自分でも思う。なんかもう怒ることも忘れちゃったよ」  たれ目がさらに下がるように笑う。私は俊也の顔が好きだった。もちろん性格も好きだったはずだけど、今の方が断然良い男に見える。短気は損気だ。今の彼氏に言ってあげたい。彼はそんなにいつも怒るわけではないけれど、けして気が長い方ではなかった。 「それくらいが丁度いいよ。あー、今彼氏がいなかったら俊也と寄り戻すのも全然ありだなぁ。楽だし楽しそう。一緒に晩酌できそうだし」 「別れる気ないんだろ?」 「ないっちゃないねー。別れたい!ってほどの決定打はないし、毎日笑って楽しく過ごしちゃってるんだよね。ただ、彼氏というよりは同居人?って感じ」
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