人生の寄り道

5/6
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
 私は先にベッドに転がることにした。お風呂はしてからの方が好きだった。体に付いた体液を落とすのに都合がいい。これが本当に好きな相手だと逆なのだけど。体を綺麗にしてから抱かれて、相手の汗や唾液、そういったものはそのまま体に残しておきたい。 「もうする?」  そう言って、俊也もベッドにやってきた。私たちにムードという概念はない。いつだって遊び半分なのだ。そうだ、前に飲んだ時は家に来たんだっけ、とそこでふと思い出した。やっぱりそのときもしていたのだった。思い出して、俊也には分からない程度にクスッと笑う。 「しよっか。飢えてるし、私」 「俺も」  そう言うと、途端に深いキスがやってきた。唇を重ねた途端に舌が唇を割って入ってくる。絡めて、舐めて。こんなにキス上手かったっけ、という思いが過ったときに、そういえば相性が良かったんだっけ、ということも思い出してきたのだった。無意識化で俊也を選んでいたのは、そういうものがあったのかもしれない。  服を脱がせるのももどかしい思いで、それでも性急にはせずにゆっくりお互い服を脱がせ合った。お互い一糸纏わぬ姿になったときにはもう私たちの体は隙間がないほどに抱きしめ合っていた。  肌の感触が好きだ。これは今までの大半の相手に共通することだった。私はとにかく肌を密着させるのが好きだった。だから、体位も正常位が一番好きだ。一番くっつけるから。これが本当に好きな人だったらどんなにいいだろう、とどこか頭の片隅で思ったが、そこに彼氏の姿は浮かんでこなかった。たぶん、好きだけでいうならば俊也の方が好きかもしれないとさえ思った。それでも、本当の好きには満たないのだけれど。  首筋を、耳を舐められて、私は淫らな声を出す。気持ちよさが身体を蝕んでいく。満たされていく。そうだ、こういうものにもう二年も触れてこなかったのだ。そんな一抹の寂しさが、飢えが、満たされていくのを感じた。本当に、俊也と寄りを戻したくなってくるような感覚を覚えたが、これは一種のまやかしだと思った。快楽に身を任せたが故のまやかし。恋愛感情がなくなったとはいえ、私には家族同然の彼氏がいる。彼を失うのは怖かった。  情事が終わると私たちは二人してベッドで電子タバコを吸っていた。 「ちゃんと着けたね、えらいえらい」 「そういう約束だったからなー」 「だって言わなかったら百パーセント着けなかったでしょ」 「着けたことなかったなー、そういえば」  私の男性遍歴もよくないけれど、ほとんどの男がゴムを着けなかった。中では出さないだけで、避妊とは言い難い男ばかりと関係を持ってきた自分が情けないような気持ちになった。着けてほしい、ということを言い出せない性格だったのだ。  もしかしたら私は不妊症なのかもしれない。それならいっそ、不妊症かを検査して知っておきたいと思った。こうして遊んだ後に不安に駆られなくて済むのなら、不妊症であってほしいと思っていた。私は子供を作る気がないのだから。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!