事件と幽霊

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「どーしたんですか!すごい声聞こえたんでビックリして上から降りてきたんすけど。あの、お客さん大丈夫ですか!」  遠藤君は床に這いつくばっている男の客に声をかけ、手を貸して起こすのを手伝った。  さすがに廊下のざわつきに気づいた客が、ドアから顔をのぞかせる。一部屋、二部屋、暗いが顔を出して様子を見ていたが、スタッフである私や遠藤君が顔を向けると慌ててドアを閉めた。  遠藤君がフロントに電話して、今夜のフロント担当の望月さんがすぐに駆け付け柔らかい声で客の二人に声をかけた。 「あのお客様、ここでは何ですから、お部屋の方でお話し伺いましょうか」 望月さんは穏やかな笑顔を作り、同性として安心させるべく女の子の顔を覗き込んだのだが、女の子は髪がぼさぼさになるくらいに首を横に振り、起き上がった男も後ずさるようにしてあの部屋は嫌だ、と無表情な顔で言った。 「なぜですか?」 問いかけた望月さんに、男は呟くように答える。 「あの部屋・・出た・・おばけ・・いる・・」 はあ?と素っ頓狂な声を上げたのは遠藤君だった。  その遠藤君とは対照的に、私は息をのんだ。だって、部屋に入っていったのは相良さんなのだから。私たちと同じ従業員の相良さんなのだから。
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