名も無き者

4/11
25人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
「珍シイナ、オレノ姿ガ見エタナンテ。マァ、コッチモ苦シクテ油断シタガ」 「というか、降りろ。いつまでも人の肩に乗るな」 「ソレハ無理ダ。サッキ契約シタカラナ。青木ノ命ガ尽キルカ、オレガ浄化スルノカ、ドッチカデシカ離レラレン」 「契約だと!?」 「ソウダ、オマエノ耳ニ、印ヲ刻ンダ。青木ハ、コレカラオレノ寄生先、並ビニ捕食物ヲ探ス手伝イヲシテモラウコトニナル」 「……」  意味がわからん。  この汚いものをどうにかしようと左手で右肩を振り払うと、器用に避ける。  意外に機敏のようだ。  何度も攻防を繰り返していると、白衣の中で呼び出しコールが鳴る。 「青木です」  慌てて白衣を着ながら、倉庫を出た。  呼び出しは小児科。  今夜の小児科医師は、先ほど運び込まれた子供の緊急治療にあたっているという。  そのため内科医である俺が呼ばれたのだ。  駆けつけたのは、六歳の男の子の部屋。  カルテを確認すると本日虫垂炎の手術を終えたばかり、術後の想定内だったが夜中に痛がり熱が出て、泣きじゃくっている。  鎮痛剤を投与し、様子を見ていると呼吸が落ち着いてきた。  遠くで聞こえるナースコールの音にソワソワしている看護師に「こっちはもう大丈夫だから、戻っていいよ」と伝えるとホッとした顔で病室を出ていく。  お腹の張りもなさそうだし、スースーと寝息を立てはじめた子供に一安心した時だった。 「チッ、マダ餌ニハ、ナランナ」 「は?」  あの声が聞こえた方に目を向けたら、右肩の上にアイツがのっていた。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!