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九条は伊藤を見たが、今は彼のそばに何かいるようなことはなく、ぐっすり眠っているのが分かった。掛けているタオルケットも不自然なふくらみはない。
(聞こえる……)
キイ、キイ
高くて耳障りな音は定期的に聞こえてくる。じっと耳を澄まして音源がどこなのか考える。立ち上がり、足音立てないようにしてそろそろと部屋の中央に移動した。
そこで、音がすぐ近くにあるクローゼットから聞こえることに気付く。
部屋の隅にある白い両開きのクローゼットは、中々大きい。伊藤がそこから着替えやタオルなどを取り出すのを九条は見ていた。こんな夜中におかしな音を立てるものが入っているとは思えない。
そっと足を踏み出し、クローゼットの前に移動する。やはり、中からはまだ音がしている。
九条は取っ手を掴むと、躊躇なくそれを思い切り引っ張った。
ガタンと音を立てて開いたその向こうに、黒髪がある。長い髪が垂れ下がり揺れていた。
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