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第1話 勢いで出たら死にかけた話
「おにーさんは? おにーさんこそ、こんなとこでナニしてるの?」
「……おにーさんじゃなくて、エリック。エリック・マーティン」
「ん、エリックさん。なにやってるの?」
「……別に。何というわけでもないけど」
「こんな山奥でぇ?」
嘘だあ。
絶対うそ。なんかある。でなければこんな場所に住むわけない。
まあ、おかげさまで助かったのだが、こんな顔面美麗カラットの殿方が、こんな山奥に生息しているもんだろうか?
じっと疑念の目を向けるわたしに、彼は──一拍。
「──そうだな。しいて言えば……」
ゆっくりと。
思わせぶりに間を溜めて『すぅ──』と意味深な目線でひと撫で。ニヤリと不敵に笑いながら、わたしの瞳を覗き込み────
「……君みたいな遭難者に恩を売って、交換条件を突きつける為──かな?」
「うわぁ────……え? 遭難待ち!?」
「真に受けるなよ。冗談だ」
悪い顔で笑ってすっと引く。
……ちょっと。なんなのもう。完全にからかわれている。こいつ、完全にからかっている。
絶対モテない。『話している分にはいいが、恋人にしたくない』というやつである。
…………このやろう…………
あ、はしたない。ダメダメ、そんな言葉はだめよ、ミリー。一応王女だったんだから。
心の中の正直な自分をちゃんと窘めて、こほんと咳をし内側を清らかにするわたしの視界の隅っこで。
何かを考えていた様子のおにーさんは、手で口元を覆いながらしげしげと呟いた。
「しかし……セント・ジュエルの王族を、こんなところで拾えるとは思わなかったな。何の因果か、偶然か……」
「まあ落ちてたんだけど、落とし物みたいに言われる日が来るとは」
「セント・ジュエルと言えば、シャトンの大地でも閉鎖的で国交が少ない。なのに、王族と会いまみえるなんて……」
「みんな外に出ないんだよ~。悪用されちゃうの」
「──……まあ、そうだろうな。命は平等だというが、王族と民草ではその重みが違う。通常、主の首を獲られてしまえば、国家存亡の危機に」
「あ。違うの。そっちもあるけど、そこだけじゃなくて」
流れるように言う彼に、わたしはぱたぱたと手を振り、そして──話していた。
「セントジュエルの王族ってね? 生まれつき、宿り石があるの。中に石を宿してる。その力で国防してるってわけ」
「……なるほど? 政治に使うには、持って来いだな」
「そう。だから外に出なかったの。わたしは要らなかったみたいだけど」
──体質の秘密を他人にしたことなんてなかったんだけど。
「……君は? 君も石を宿しているのか?」
「うん」
彼と話すテンポが、不思議と心地よくて。
「──わたしの宿り石は、鍾乳石。聞いたことある?」
わたし、説明しちゃってた。
胸元のペンダントを引き上げて、悪戯っぽく。
文字通り、《秘密のお話》をするように。
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