悪役令嬢物語が魂に刻まれている

2/7
15人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
 記憶を取り戻して三日後。  いかにも物語の舞台となる王立貴族学院の入学式で、総代挨拶をしている第二王子エルマーという、遠目にも絶世の美貌の青年を見てアルテミシアは頭を抱える。 (間違いなく「なんらかの漫画」で見たことがある。ヒーローかどうかまでは思い出せないけど、モブではないわ。絶対に公爵令嬢レベルの婚約者がいる……!)  現在のアルテミシアの身分は子爵令嬢。  しかもつい最近までは、自分が貴族の血を引くなど知らずに下町で暮らしていた。  かつて子爵家のメイドをしていた母が、子爵のお手つきとなり、それを嫌った奥方に追い出されてひとりで産み育てた子、それがアルテミシアだ。  流行り病で母を亡くし途方に暮れていたところで、突然現れた子爵に引き取られた。  そして、娘のひとりとして学院に通わせてもらえることになったのだが―― (どこかで見たことあるのよ、この設定。貴族社会においては決して高いわけではない身分、しかも庶子。持ち前の明るさで現在の境遇をものともしないけど、実は家の中では奥方と義姉たちにいじめられ、義兄にはいやらしい目で見られている。しかも、引き取られて教育を受けさせられている理由が最悪。この子爵家が金銭的援助を受けている変態伯爵のもとへ娘を嫁がせるという約束があって、本当なら義姉の役目だったそれを同じ「子爵令嬢」なら、とアルテミシアへと押し付ける目的で……!)  この状況の中、アルテミシアにできることといえば、卒業までの間に自立できる能力を身に付けて、家から自由になる道筋を見出すこと。  なのだが。  
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!