悪役令嬢物語が魂に刻まれている

1/7
15人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
 高熱にうなされ、生死の境をさまよった十五歳の夏、アルテミシアは思い出した。  ここが前世で読んだ「なんらかの漫画」に酷似した世界であることを。 (覚えてない! 乱読派だったから、同じようなの、たくさん読んでる……! ああ~初手で詰んだ)  思えば異世界転生、悪役令嬢ものがことに好きだった。  常時二〇~三〇の連載を追いかけていたし、生涯で読んだ作品数でいえば、そのジャンルだけで一〇〇は下らない。  大まかな流れ、特に出だしはかなり似通っている。  だいたいにおいて、現代日本から転生したヒロインは「悪役令嬢」なるポジションに収まっているのだ。しかしその世界は、建前の上では「正ヒロイン」のために作られているがゆえに、悪役令嬢たる主人公は身分も能力も容姿も優れていながら窮地に陥れられ、断罪されてしまう。  その来るべき破滅回避が、悪役令嬢の最初の目的となり、物語の方向性が定まるのだ。  一方の、正ヒロイン。  さして身分が高いわけではないが、「性格の明るさ」「物怖じしない態度」「庇護欲をそそる容姿」「聖女特有の希少性の高い能力」等、愛される要素を持ち合わせていて、「攻略対象」なるイケメンを次々に落としていくのだ。その中には、悪役令嬢の婚約者である王侯貴族の青年も含まれていて……。  普通ならただの「略奪愛」になるところ、悪役令嬢があまりにも悪であるがゆえに「あれは浮気じゃない」「しょうがない!」と全方位丸く収まる空気に持っていかれてしまうという。  作品によってはいくつかのアレンジ設定はあるが、転生者である「悪役令嬢」同様、正ヒロインもまた転生者のパターンも多い。  世界についての知識を有しており、「攻略対象」を落としつつ「悪役令嬢」を陥れるなどやすやすとやってのける。ずるくて小賢しくあざとい。  そんな彼女に籠絡される攻略対象者たちは、往々にして凡庸だ。自分の婚約者を差し置き、「おもしれー女」にはまり、場合によっては「婚約破棄」もするくらいなのだから。 (「悪役令嬢もの」の場合は、それで構わないのよ。そんな男たちなんて目じゃないほどの、きらめく救済イケメンが現れて、「正ヒロイン」にも「攻略対象者」にも華麗なるざまぁをしてくれるから)  なのだが。  
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!