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「章三! 久しぶり!」
葵さん同様、抱きつこうとした蒼介さんを避けると
「兄貴、うざい」
心底嫌そうに呟いた。
「そんなに俺の傍に居たいなら、都内の学校なんかに就職しなきゃ良かったんじゃないの?」
冷たくあしらう章三君に、蒼介さんは口元に手を当てて
「章三……、僕が都内に引っ越して寂しかったんだね」
なんて言うと、嫌がる章三君に抱き着いた。
「全く……蒼介は変わらねぇな」
俺の反対側に靴を脱いで座る荻野君に、苦笑いを返す。
荻野君は桐楠大学を含めた学校理事のトップに位置する立場から、学校経営の勉強を働きながらしているらしい。
そんな荻野君の秘書として、章三君は働いている。
だから時々、俺に秘書の仕事の相談をしたりしているから、俺は章三君とはこまめに連絡を取っていたりする。
彼等が学生時代に出会い、今もこうして仲良く付き合っていけている幸せを噛み締めていると
「陽一さん。翔があおちゃんに僕があ~んして食べさせようとしたら、箸を折った!」
「お前には田中が居るだろうが! 葵は俺のだ!」
「兄さん、落ち着いて!」
2年も会わずに居たのに、集まると2年前と変わらない彼等に笑みが浮かぶ。
「でも、幸さんが来られなかったのが残念だったね」
ふと呟いた葵様の言葉に、蒼介さんが小さく笑い
「幸さんは、ほぼ毎日我が家に電話して来るよ。ね、陽一さん」
と話を振ってきた。
「まぁ、主に惚気ですけどね」
大袈裟に肩をすぼめた俺に
「豊橋さんが熱出したんだっけ?」
心配そうに葵様が聞いて来た。
「まぁ、犬橋君らしいですよね。楽しみ過ぎて熱出すとか」
「犬橋君……久しぶりに聞いた」
俺の言葉に吹き出す章三君に
「いつか……みんな揃って会いたいな」
ポツリと荻野君が呟いた。
「そうだね。必ず、みんなで揃って会おうね」
蒼介さんが小さく微笑み言うと、みんな頷いて桜を見上げた。
俺達はそれぞれの道へと歩き出したけど、きっと又、みんなで笑顔で会える……。
そう思える仲間であり、友に出会えた事に胸が熱くなる。
愛する人と、大切な友がいる今の自分の人生は幸せだと……素直にそう思える。
そんな俺達に、風が吹いて桜の花びらが季節外れの雪のように降り注いた。
「綺麗だね……」
俺の隣で幸せそうに笑う蒼介さんに微笑み返し、俺はきっと、この人に何度も恋をするんだろうと改めて思った。
そして、過去も未来もその先も……何度も、何度だって蒼介さんを見つけ出して共に歩く人生を歩いて行くのだろう。
そう……未来永劫、きみとずっと……【完】
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