リリカ、デートに行く

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リリカ、デートに行く

今日も芸能人の不倫のニュースだ。 芸能人ならモテて当然だろう。 それで普通に暮らしなさい、って方が難しいんじゃないだろうか。 「リリカは、運命の人と出会って、もしその人に他に好きな人がいたらどうするの?」 「それは、やはり振り向いてもらえるようにがんばりますよ!」 「でもやっぱり、人は好みがあるからさ、そうそう変われないかもしれないじゃん」 ちょっといじわるに言ってみた。 「あんなに前世では想ってくれたんです! きっと今世だって、私のことを想ってくれてるはずです!」 「へぇ。もう前世では出会ってるんだね」 「はい! 彼は兵を率いて、私をやっつけにきました! その執念たるや! 彼の手で殺されたときは、この人こそ私の運命の人……と、確信しました!」 「たしかに運命の人だけど、あちらは恋愛感情じゃないよね……」 すでに行き違いが起こってるけど、大丈夫かな。 「今世は殺し合いではなく、愛し合いたいのです! うまく人間そのものには転生できませんでしたが、そこそこ人間らしくはなってると思うので、出会えれば自信はあります!」 そこそこ……? 普通に暮らすだけなら騙せるか……。 いや、無理でしょ。 今の暮らしも全然普通じゃない。 「人間らしいリリカもいいけど、今のままのリリカを好きになってもらえれば一番いいよね」 「ああ、その発想はなかったです。散々この触手で彼の可愛がっていた部下を引きちぎってきたので、触手をみたらきっと嫌われちゃいます」 嫌うくらいで済まないよな。 前世の記憶を持ち越さないルールって、大事だと思った。 ♢♢♢ ある日、リリカはレストランのバイト中にお客さんから連絡先をもらってきた。 「連絡した方がいいですかね。運命の人かもしれないし!」 「運命の人って、もっとビビッ!っと来るのかと思ってた。結構手探りなんだね」 リリカはスマホを操作できない。 スマホが人外対応になるまでは時間がかかりそうだ。 代わりに俺が操作する。 「よし、アプリ登録したからメッセージ送れるよ。この『あっくん』って人だから」 「へー。よろしくお願いします、あっくん」 「あ、もしかして、音声入力ならいけるんじゃない?」 入力を切り替えて試してみる。 リリカは「こんにちは!」と喋ってみるが、反応はない。 ある意味高性能だ。 「まず『こんにちは』のスタンプを送ってみるか」 するとすぐに既読になり、あちらからもスタンプが返ってきた。 『連絡ありがとう! 良かったら、今度一緒にごはんに行きませんか?』 「デートのお誘いだよ? どうする?」 「デートですか? デートって、付き合ってからするんじゃないんですか?」 そうも考えられるか。 しかも今気づいたけど、リリカの代わりにメッセージを打つってことは、あっくんのプライバシーは俺に筒抜けだ。 すまない、あっくん。 「このお誘いはね、相手のことを知るためにごはん食べながらおしゃべりしましょう、って意味だよ。相手のことがわからなかったら、恋人にはなりづらいよね」 「恋人……なんか、いい響きですね!」 リリカの目が輝いている。 「じゃあ! 行きます! 虎穴に入らずんば虎子を得ず!」 虎穴に入っていく人外リリカの髪が、虎子のあっくんを掴んで引きひきず出すイメージが浮かんだ。 あっくんが普通の人でありますように。 普通なら命は助かる。 ♢♢♢ 何度かやりとりして、デートを取り付けた。 あっくんは30歳のサラリーマン。 リリカとは10歳近く歳が離れているが、そんなの色んなことから考えたら些細なことだ。 「デートって、何を着ていけばいいですか?」 リリカは部屋にいるとスウェットの上下ばかりだ。 高校の制服が気に入ってたらしく、ブラウスとチェックのスカートは今でも着ている。 似たような服を買うので、着回しがいつも制服チックになっていた。 「まあ、普段のリリカを見て興味があるなら、普段通りがいいよね。今の服の中で、あんまりボロボロじゃないのがいいと思うよ。」 「それを言われると、無いですね! 全部高校に入った時に買ったので!」 「じゃあ、明日、買いに行こうか。」 ♢♢♢ プチプラの服をいくつかみつくろう。 「足がきれいなのはわかるけど、初回のデートでスカートが短いのは良くないよ。流行りだけど、ヘソ出しはちょっと……。これは胸が強調されすぎだよ。もう少し体のラインが出ない方が」 と、意見を言う。 「なんか………ダサくないですか?」 普段、スタイルの良さを生かした服を着ているリリカにしては、ゆるいニットにスキニーパンツという保守的な格好になった。 これは、あっくんのためだ。 初回デートで無いとは思うが、もしエッチな雰囲気になったらあっくんは死ぬ。 俺はそんな気がなくとも、部屋に起こしに行っただけで首をはねられるとこだった。 正体を知っている俺だから避けれた。 リリカが身持ちが固いようにみせなくては。 「最初のデートはそれくらいがいいんだ。普段のリリカも見てるんだから大丈夫だよ」 ♢♢♢ その日の夜、あっくんからメッセージが来た。 『今日、たまたまリリカちゃんに似た人を見かけたんだけど、もしかして彼氏いたかな? もしそうなら誘ってごめんなさい。。。』 それは、俺だ。 こちらこそごめんなさい。 リリカは寝てしまったので、仕方なく俺がなりすまして返事をする。 『それは兄です! 彼氏はいません!』 そうやってなりすましているうちに、話はあっくんの仕事に及んだ。 どうやら、あっくんは今ブラック企業に勤めていて仕事を辞めたいらしい。 今、友人が起業しようとしていて、誘われて迷っているとのことだ。 ♢♢♢ リリカは用意した服を着て、デートに行った。 俺もついていき、リリカとあっくんの近くの席をとった。 あっくんはイケメンだった。 それで彼女がいないとか、嘘だろ。 どうやらあっくんは友人のベンチャー企業に行くことを決め、資金集めをしているらしい。 今、投資すれば、リターンがどうのこうの。 ついでに割りのいいバイトを紹介すると言っている。 リリカはちんぷんかんぷんだ。 そんなリリカを、可愛いだのいい子だの、大分持ち上げる。 帰宅してから、紹介されたバイトの内容を見ると風俗のようだ。 「詐欺だね。きっと、ハマった子にお金を出させて、足りなければこういうところで働いてもらうんだろう」 「これはどんなお店なんですか?」 「リリカは知らなくていいよ。とりあえず、あっくんを野放しにするのはやだな」 「何が悪いんですか?」 「あっくんは、女の子が好きになった気持ちを利用して、その子からお金をとったり、いやらしい店で働かせようとしたんだ。悪い奴だよ」 「うーん。あの人の何がいいんですかね?めっちゃ薄っぺらくて、何のために働いているかわからないし、お金の話ばっかりでした! あんな人を好きになるなんて、女の子も見る目がないですよ!」 それもそうか。 人を見る目があれば、被害には遭わない……。 「でも、まあ、うっかり好きになる子はいると思うんだ。イケメンだったし。メッセージも優しいし、まめだし。ベンチャーとか、夢を追ってるかんじ良くない?」 「うーん。リリカは、文章からは相手がどんな人かわかりません! 拳と拳で語り合わないと!」 殴り合いとはいかないが、確かにぶつかり合わないと相手のことはわからないかも。 「拳を交えたからこそ、その人がこれまでどれだけ修行してきたかわかるのです!」 今世もそのスタンスなんだろうか? ♢♢♢ あっくんには「よくわからないから知人に相談した」と送ったら、返信が来なくなった。 「振り出しに戻りましたね。」 「まあ、この調子で運命の人を探すのは、途方もないことだとわかったよ」 リリカが恋愛の土俵に乗る日は来るのだろうか。
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