第三夜

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 頷き返すと、北校舎側に近い靴箱の方へ向かう。  スチール製でわたしの身長より少し高いくらいの大きさだ。  すのこに上がって、端から順に開けては中を照らしていく。 (怖いな……)  (ひら)けた空間だからか、心が落ち着かない。  この昇降口は視認性が高い上に逃げ場所がなく、大した隠れ場所もなかった。  ちら、と正面玄関の扉を見やる。  (さび)に侵食されつつあって、それが血に見えた。  初日、ここで無惨に殺害された夏樹くんの様子が蘇ってきたのだ。 「……っ」  見つかったらすぐに追い詰められる。  そういう意味でも、早く調べ終えてここから離れたい。  そう思って次の靴箱を開けたとき、ぱたぱたと何かが降ってきた。 「わ……!」  濡れた何かが皮膚に飛んで、その生あたたかい温度に違和感を覚える。 (え……?)  慌てて明かりを向け、息をのんだ。  靴箱からだらりと垂れた、赤黒い物体。  ぐねぐねと波打っているそれは、まさか腸……? 「うっ」  靴箱全体に、ぐちゃぐちゃに潰された臓物(ぞうもつ)が詰め込まれていた。  開けた反動で一部が飛び出してきたのだ。  ぽた、ぽた、と血が滴っている。 (気持ち悪い……!)  足から力が抜け、思わずその場にくずおれる。  生臭いような強烈なにおいに襲われ、吐き気がした。 「花鈴……!?」  ちかっと白い光が飛んでくる。  異変に気がついた朝陽くんが駆け寄ってきた。 「う、何だこれ」  床に散らばった内臓の破片を照らし、それから靴箱の臓物やそこから垂れる血に気がついたようだ。  ひどい異臭に顔をしかめつつ、(かたわ)らに屈み込む。 「大丈夫? おいで、こっち……。1回離れよう」  肩を支えてもらいながら引っ張り起こされ、放心状態だったわたしはただただ身を(ゆだ)ねる。  悲鳴を上げる気力もとうに失って、蒼白(そうはく)な顔のまま朝陽くんについて歩いた。  力の入らない膝が震えて、がくん、と何度もへたり込みそうになる。  浅い呼吸が苦しい。  いつまでも生臭さが鼻から抜けなかった。 「平気? それ、洗いにいく? とりあえず化け物の気配もないし……」  そう指し示され、ようやく自分の状態に意識が向いた。  肌や制服にべったりと血が染み込んでいる。  臓物を浴びたせいだ。  生臭いにおいも錯覚じゃなかった。
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