6人が本棚に入れています
本棚に追加
/108ページ
「おはよう」
「おはよう!柚紀!」
髭って……何歳くらいから剃る程生えてくるんだろ?
高校生じゃ、まだそんなに生えないよな?
大学生?
大学生になってからって考えたら、益々母さんに教えてもらうなんて変じゃないか?
「ん?どした?」
「髭って、何歳くらいから剃るんだろ?」
「はあ?なんで突然そんな事気になるんだ?」
「初めての髭剃りは、母さんが教えてあげるって張り切ってたけど、その頃ってもう、大学生とかなんじゃないのかな?と思って」
「なっ!……は……初めての髭剃りって……柚紀の母さんが?それは……是非俺も教えてもらいたいけど……じゃなくて!そんなの教えてもらわなくたって、出来るだろ。ってか、教えてもらうなら、父さんだろ普通」
「やっぱり佐野もそう思うよね?でもね、俺の父さんの髭は、母さんが言うには、レベル1だから、母さんの方が色々教えられるんだって」
「レベル1?……柚紀の母さんって何者?」
放課後、クラス全員で合唱の練習をする
皆で歌うのは楽しいんだけどなぁ
瑞紀を見てても思うけど、あの暗号の様な記号を見て、なんで両手があんな風に動くんだろう
ピアノ弾ける人って凄い
そんな、ある日の夜
コンコン
「は~い」
「ゆず、ちょっと話がある」
そう言って部屋に入って来た瑞紀の手には、封筒が握られていた
「何?」
「今日、俺が帰って来た時、これがポストに入ってた」
そう言って、封筒から出した手紙には、
「なっ……に?これ……」
すべて定規を使って書いたような文字で
ピアノ ジタイシロ
と書かれていた
「なんで……こんな…」
「さあな?だが、俺は辞退しようと思う」
「えっ?!せっかく練習してたのに?」
「この手紙……差出人も住所も書いてない。切手も貼ってないし消印もない。つまり、この家まで来てポストに入れたって事だ。たかだか合唱コンクールのピアノを辞退しなかったばかりに、この家の誰かに何かされるなんて、ごめんだ」
「瑞紀のクラスの誰かって事?」
「可能性は高いけど、分からない。俺が降りたからと言って、そいつに決まるのかどうかも分からないしな」
ピアノ……綺麗な音色なのに……
こんな事考える人が弾くなんて……
「ゆずがそんな顔して考える必要はないよ。相談ってのはさ、辞退するにしても理由がいるだろ?怪しまれない様な理由が」
「うん……」
「だからさ、転んで左手首をひねった事にしようかと思って」
「手首を?」
「そう。病院行く位の怪我じゃバレるけど、ひねった位の痛みなら、自己申告だからな。まあ、明日にでもサポーター買って、それっぽく見せてさ。ただ、母さんに言うと心配するから、協力して欲しいんだよ」
「それは……いいけど……瑞紀、ほんとは弾きたかったんじゃないの?」
「ピアノを弾くのは好きだし、今回の課題曲も、けっこう好きな曲だけど、別に、合唱コンクールでどうしてもピアノが弾きたかった訳じゃないよ。だから、そんな顔すんな」
「うん……」
「それから、念のため、学校ではなるべく1人で居ない事。佐野君にでも頼んでおけ。学校帰りも、なるべく一緒に帰るようにしよう」
「……分かった」
最初のコメントを投稿しよう!