isi.血闘前、転がる樽

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isi.血闘前、転がる樽

ヤゴロウを刺したことを後悔するマサスケに、 「所詮、世間には後ろめたいことしかねぇヤクザもんだ、気にする事はねぇよ」 とイシは言った。 中身のない棺桶の樽を横に転がし、しかめ面で匂いを嗅ぎ、嫌そうな顔でイシは中に入った。 「マサスケ、蓋をしろ!」 マサスケが、樽を閉じようと、蓋に手を賭ける 樽の中のイシの姿が、闇に消えていく。 「閉めたら、坂へ蹴り落とせ、そして、振り返らず逃げるんだ」 樽の中から、聞こえずらいくぐもった声でイシが言った。 「イシさん」 ゴン! 躊躇する昌助に、イシが中から樽を叩く。 「情けねえ声を出すな、早くしろ!」 マサスケは、両手で蓋を叩きしっかりしまったのを確かめると、棺桶樽を坂の上から押し出した。 坂の上から、下のさいのかわらに向けて、ゴトゴトと小石を跳ねながら樽が転がり落ちる。 「いて!」 樽の中の最悪の居心地の悪さにイシが、悲鳴をあげる。 身体がかしこにぶつかり、樽が勢いづいて回転して、中のイシもくるくると回る。 「なんだ、あれ」 下のさいのかわら、集まった男たりのだれかれともなく、ゴロゴロの転がり落ちてくる棺桶樽に気がつき声に出した。 棺桶樽は、やがて男たちが集まるところに来るとゆっくりとスピードを落とし、図ったかのように集団の真ん中に止まった。 男達のいる場所は、いま出刃や刀で斬りあい殴り合いの殺傷していたの真っ只中で、あたりにはうめく声、横たわる身体から虫の息が聞こえ、殺気に満ちている。 そこに、棺桶の樽がひとつだけ。 静まる喧騒、湧き上がる疑問。 樽の近くに居る4人の男が、敵味方忘れて顔を見合わせる。 そして、お互いさっきまで殺し合いをしたいたのに、合わせるようにゆっくりと樽に近づき、一人は刀でつついてみたり、蹴っ飛ばしてみたりする男もいて 別の男が腰をかがめて樽を覗き込むが、しっかりと蓋がされた樽の中が見えるわけもなく。 「どうなってんだそいつは?」 「さあ?」 誰かの質問に、4人のだれかが首をかしげている ピシッ!! 樽の周りを魚の背びれのようにギザギザに白い光が走り抜け、コトッと樽の半分が斜めに切れて、下に落ちる。 4人のうちの一人が、その樽の中を、下から覗き込もうと体をかがめる。 中からイシが飛び出て、仕込み杖を抜いて、男達の間をすり抜ける。 周りの男たちの目には、キラっと光るものが線になって風みたいに流れたようにしか見えない。 そして4人の間をすり抜け、イシが4人の男たちの背後に立っている。 4人の男は、それぞれ振り向いたが焦点があわず、周りの景色がわからない。 おかしいな、なんでだ・・ 4人の男たちは思った 全員が、目が霞んでよくみえず、あるものは自分の腹から出ている臓物を見つめ、ある者は首から滴る血に気づかないまま歩き出そうとして崩れ落ちた。 バタバタと倒れていく4人の男。 イシは早業ですでに杖に刀をしまい込んでいる、全身をアンテナにして周りの状況を感じ取ろうとした。 「周りは屑しかいねぇ、・・躊躇うことはない。」 イシはひとり呟いた。 近づいて来い、あと4,5人、せめて2、3人は居合でやる。 その後は、命尽きるまでぶった斬ってやる! イシの孤独な血闘の幕が開けた。
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