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従妹の寿綾乃は、美人ではなかった…
本物の寿綾乃は、キレイではなかった…
彼女には、すまないが、これは、事実…
事実だった…
本物の寿綾乃の母は、姪の私から見ても、思わず、目を見張るほどの美人だったにも、関わらず、娘の彼女は、平凡だった…
だが、これも、また、この世の中には、ありがちなこと…
そうでなければ、美人の子供は、美人ならば、美人が、加速度的に増えることになる…
例えば、ひとりの美人が、二人の美人の娘を産み、その二人の娘が、また美人の娘を産み…
と、いうことは、ありえない…
つまりは、美人は、必ずしも、美人を産むということは、ないということだ…
そして、叔母にとっては、残念ながら、実の娘ではなく、姪の私が、美人に生まれた…
だから、血筋というのは、あるのかも、しれない…
美人の血筋というのは、あるのかも、しれない…
そして、それゆえ、私の母は、亡くなった従妹の綾乃になりすませと、私に遺言した…
美人の叔母に似た私なら、娘の綾乃になりすますことが、できるからだ…
そして、それは、以前、何度も書いたが、母にできる唯一のことだった…
決して裕福ではない、母子家庭に育った私…
だから、母が亡くなったとて、譲り受けるべき、財産もなにもない…
そんな母が、私に譲ることのできる唯一の財産が、亡くなった従妹の寿綾乃になりすまして、生きろ!
と、いうことだった…
母は、おそらく、従妹の綾乃が、ホントは、誰の子供か知っていたのかも、しれない…
ただ、私には、曖昧に、綾乃の父親は、お金持ちと、濁しただけで、名前は、明かさなかった…
しかしながら、綾乃は、お金持ちの血を引くがゆえに、争いに巻きこまれるに、違いない…
だから、そのときに、私に、
「…強い男…」
「…いざというときに、綾子を護ってくれる、強い男を探しなさい…」
と、私に厳命した…
そして、その際の強い男というのは、当然、腕力ではない…
強さ=お金…
強さ=知力だ…
つまりは、母は、お金持ちの遺産争いに巻き込まれたときに、私を護ってくれる、お金があり、知力がある男を探しなさいと、遺言した…
そして、私は、その通りにした…
私にとって、お金があり、知力がある男は、難なく見つかった…
それが、藤原ナオキだった…
当時、女子高生の私が、ナオキの会社で、アルバイトをしたのが、きっかけだった…
当時は、まだナオキは、会社を興して、まもなくだったが、成功の階段を、上り始めたときだった…
もちろん、出会った当時は、そんなことは、わからなかった…
だから、偶然…
ホントは、偶然に過ぎないのだろう…
偶然、母の言った通りの、金があり、知力もある、私を護ってくれる男に巡り会えたということだろう…
私は、思った…
そして、今になって、考えれば、なぜ、私に、母が、従妹の綾乃になりすませという言葉の真意が、わかってくる…
それは、私が、叔母に似た美人だからだった…
従妹の綾乃には、すまないが、彼女は、母には、似つかぬ容姿…
あの母を見て、娘はこれ?
と、でも、呼べるルックス…
それに比べれば、姪の私の方が、美人で、叔母に似ていた…
だから、母は、私に、従妹の綾乃になりすませと、言ったのだ…
現実に、亡くなった五井家前当主の建造の弟の義春は、私を一目見て、叔母の娘だと、気付いた…
私が、叔母に似たルックスだったからだ…
だから、母の狙いは、的中したわけだ…
私は、今さらながら、そんなことに、気付いた…
そして、そして、だ…
あのときは、気付かなかったが、私が、伸明に好かれた理由…
それは、伸明が、私を、五井家前当主、建造の娘と誤解していたから…
それに、尽きる…
伸明は、自分と血が繋がってないにも、関わらず、自分を次の五井の後継者に推した、建造を慕っていた…
だから、以前、建造の墓の前で、伸明と、キスをしたのだ…
あのときは、気付かなかったが、伸明は、建造に、娘の綾乃の面倒は、ボクが見る…
と、でも、言いたかったのでは、ないか?
その事実に、遅まきながら、気付いた…
つまりは、伸明は、私が、建造の血を引いていたと、誤解していたから、好きになった…
そういうことだろう…
私は、今さらながら、気付いた…
が、
その後、明らかに、それが、ウソだと、わかったにも、かかわらず、伸明の態度は、変わらなかった…
私に対する伸明の態度は、変わらなかった…
それは、なぜか?
今になって、考えると、謎…
実に、謎だ…
だから、私は、誤解した…
もしかしたら、伸明と、結婚できるかも、しれないと、誤解した…
そして、誤解したままで、今に至っている…
が、
もしかしたら?
もしかしたら、伸明も和子と同じ…
FK興産の買収を視野に入れていた?…
ナオキの会社、FK興産の買収を視野に入れていた…
そのために、私を無下に扱わなかった?…
私とナオキは、親しい…
私は、ナオキの事実上のパートナー…
だから、仮に、五井が、FK興産の買収をするとしたら、私にナオキを説得させる?
FK興産の株を手放せと、ナオキを説得させる?
そのために、私に親しくした?
つまりは、あくまで、私は、道具?
藤原ナオキに、FK興産の株を手放せるための道具に過ぎない?
そうも、思った…
が、
これでは、和子と同じ…
伸明もまた、五井の女帝である、伸明の叔母の和子と同じだ…
私は、思った…
私は、考えた…
そして、そんなことを、考えながら、気付いた…
いわゆる、愛情の問題だ…
例えば、A男が、B子を好きだと、する。
すると、当然、A男が、B子を好きなのは、B子もわかるし、A男とB子の周囲の者も、皆、気付くものだ…
ただ、それを、口にするか、しないかの、違いだけ…
それだけだ…
そして、A男が、B子を、どう好きか?
わかりやすく言えば、将来、結婚したいぐらい好きか?
あるいは、
そうではなく、ただ好きか?
要するに、その違いは、なにかといえば、難しいが、下心があるかないかの違いだろう…
つまりは、相手を、性的な対象に含むか、否かの違いだろう…
そして、それは、大方、B子本人のみならず、周囲の人間も気付くものだ…
そして、私が、なぜ、そんなことを、突然、言い出すのか?
それは、伸明のことを、言いたいからだ…
伸明が、私を好きなのは、わかる…
これは、断じて、私の思い違いでも、なんでもない…
が、
どうして、好きか?
と、問われれば、答えに窮する…
つまりは、答えが見つからない…
私が、美人だから、好きなのでは?
とも、考えられるが、伸明にそれは、当てはまらない…
なぜなら、伸明は、大金持ちだからだ…
だから、私以上の美人は、腐るほど、手に入るだろう…
おまけに、私は、もう若くない…
歳も32歳…
私より、もっと、若くて、きれいな女を、伸明は、その気になれば、簡単に手に入れることが、できるだろう…
だとすれば、やはり、私が、建造の娘だと、誤解していたからか?
そうも、考える…
私は、本物の寿綾乃ではない…
本物の寿綾乃は、亡くなった…
が、
それを知らなかった伸明は、私を本物の寿綾乃だと、思っていた…
だから、好きになった…
それが、真相だろう…
が、
しかしながら、それが、ウソだと、わかっても、伸明の私に対する態度は、変わらなかった…
これは、一体なぜ?
考えれば、考えるほど、疑問が沸く…
それとも、これは、ナオキのせい…
そうとも、気付いた…
伸明は、ナオキと仲がいい…
だから、ナオキの、事実上のパートナーだった私を無下にできない…
そんなことをすれば、伸明は、ナオキとの間の友情にヒビが入るからだ…
だから、できない…
そうとも、言える…
が、
確証はない…
あくまで、推測…
が、
それも、伸明が、ナオキから、FK興産の株を譲り受けるのが、前提とすれば、どうか?
もしかしたら、すでに、伸明は、ナオキから、FK興産の株を譲り受けたのかも、しれない…
だから、急に私に冷たくなった…
そうとも、考えられる…
つまりは、私は、用済み…
すでに、利用価値がなくなった?
そうとも、考えられる…
が、
本当のところは、わからない…
まだ、わからない…
が、
おそらく、まもなくわかる…
そんな予感がする…
それは、なぜか?
それは、ナオキが、おそらく、和子の元にいるから…
もし、ナオキが、今、和子の元にいて、FK興産の株を五井に売却すれば、目的は、終了する…
和子と伸明の目的は、あくまで、ナオキの持つ、FK興産の株を五井に売却させるのが、目的…
だから、ナオキから株を買い取れば、目的が終了する…
目的が、終了すれば、伸明の真意がわかる…
そういうことだ…
これは、変な話、男が女と一夜を共にするのと、同じ…
同じだ…
一度、ヤレば、女は、用済み…
そんな男は、この世の中に、ごまんといる…
そして、それは、女もまた同じ…
同じだ…
一度、寝ただけで、終わるのは、男だけではないと、いうことだ…
男だけの専売特許ではないということだ…
私は、思った…
私は、考えた…
いずれにしろ、まもなく、すべて、わかる…
和子の狙いも…
伸明の狙いも、わかる…
伸明の私に対する真意もわかる…
そう、思うと、怖くなった…
同時に、変な話、わかりたくもあり、その一方で、できれば、一生、わからない方が、いいとも、思った…
なぜなら、このままだから…
中途半端のまま…
現状維持のままだから…
このまま、人生を送ることができるからだ…
が、
世の中は、そんなに甘くない…
まもなく、意外な展開を見せることになる…
<続く>
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