伸明 6

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 従妹の寿綾乃は、美人ではなかった…  本物の寿綾乃は、キレイではなかった…  彼女には、すまないが、これは、事実…  事実だった…  本物の寿綾乃の母は、姪の私から見ても、思わず、目を見張るほどの美人だったにも、関わらず、娘の彼女は、平凡だった…  だが、これも、また、この世の中には、ありがちなこと…  そうでなければ、美人の子供は、美人ならば、美人が、加速度的に増えることになる…  例えば、ひとりの美人が、二人の美人の娘を産み、その二人の娘が、また美人の娘を産み…  と、いうことは、ありえない…  つまりは、美人は、必ずしも、美人を産むということは、ないということだ…  そして、叔母にとっては、残念ながら、実の娘ではなく、姪の私が、美人に生まれた…  だから、血筋というのは、あるのかも、しれない…  美人の血筋というのは、あるのかも、しれない…  そして、それゆえ、私の母は、亡くなった従妹の綾乃になりすませと、私に遺言した…  美人の叔母に似た私なら、娘の綾乃になりすますことが、できるからだ…  そして、それは、以前、何度も書いたが、母にできる唯一のことだった…  決して裕福ではない、母子家庭に育った私…  だから、母が亡くなったとて、譲り受けるべき、財産もなにもない…  そんな母が、私に譲ることのできる唯一の財産が、亡くなった従妹の寿綾乃になりすまして、生きろ!  と、いうことだった…  母は、おそらく、従妹の綾乃が、ホントは、誰の子供か知っていたのかも、しれない…    ただ、私には、曖昧に、綾乃の父親は、お金持ちと、濁しただけで、名前は、明かさなかった…  しかしながら、綾乃は、お金持ちの血を引くがゆえに、争いに巻きこまれるに、違いない…  だから、そのときに、私に、  「…強い男…」  「…いざというときに、綾子を護ってくれる、強い男を探しなさい…」  と、私に厳命した…  そして、その際の強い男というのは、当然、腕力ではない…  強さ=お金…  強さ=知力だ…  つまりは、母は、お金持ちの遺産争いに巻き込まれたときに、私を護ってくれる、お金があり、知力がある男を探しなさいと、遺言した…  そして、私は、その通りにした…  私にとって、お金があり、知力がある男は、難なく見つかった…  それが、藤原ナオキだった…  当時、女子高生の私が、ナオキの会社で、アルバイトをしたのが、きっかけだった…  当時は、まだナオキは、会社を興して、まもなくだったが、成功の階段を、上り始めたときだった…  もちろん、出会った当時は、そんなことは、わからなかった…  だから、偶然…  ホントは、偶然に過ぎないのだろう…  偶然、母の言った通りの、金があり、知力もある、私を護ってくれる男に巡り会えたということだろう…  私は、思った…  そして、今になって、考えれば、なぜ、私に、母が、従妹の綾乃になりすませという言葉の真意が、わかってくる…  それは、私が、叔母に似た美人だからだった…  従妹の綾乃には、すまないが、彼女は、母には、似つかぬ容姿…  あの母を見て、娘はこれ?  と、でも、呼べるルックス…  それに比べれば、姪の私の方が、美人で、叔母に似ていた…  だから、母は、私に、従妹の綾乃になりすませと、言ったのだ…  現実に、亡くなった五井家前当主の建造の弟の義春は、私を一目見て、叔母の娘だと、気付いた…  私が、叔母に似たルックスだったからだ…    だから、母の狙いは、的中したわけだ…  私は、今さらながら、そんなことに、気付いた…  そして、そして、だ…  あのときは、気付かなかったが、私が、伸明に好かれた理由…  それは、伸明が、私を、五井家前当主、建造の娘と誤解していたから…  それに、尽きる…  伸明は、自分と血が繋がってないにも、関わらず、自分を次の五井の後継者に推した、建造を慕っていた…  だから、以前、建造の墓の前で、伸明と、キスをしたのだ…  あのときは、気付かなかったが、伸明は、建造に、娘の綾乃の面倒は、ボクが見る…  と、でも、言いたかったのでは、ないか?  その事実に、遅まきながら、気付いた…  つまりは、伸明は、私が、建造の血を引いていたと、誤解していたから、好きになった…  そういうことだろう…  私は、今さらながら、気付いた…  が、  その後、明らかに、それが、ウソだと、わかったにも、かかわらず、伸明の態度は、変わらなかった…  私に対する伸明の態度は、変わらなかった…  それは、なぜか?  今になって、考えると、謎…  実に、謎だ…  だから、私は、誤解した…  もしかしたら、伸明と、結婚できるかも、しれないと、誤解した…  そして、誤解したままで、今に至っている…  が、  もしかしたら?  もしかしたら、伸明も和子と同じ…  FK興産の買収を視野に入れていた?…  ナオキの会社、FK興産の買収を視野に入れていた…  そのために、私を無下に扱わなかった?…  私とナオキは、親しい…  私は、ナオキの事実上のパートナー…  だから、仮に、五井が、FK興産の買収をするとしたら、私にナオキを説得させる?  FK興産の株を手放せと、ナオキを説得させる?  そのために、私に親しくした?  つまりは、あくまで、私は、道具?  藤原ナオキに、FK興産の株を手放せるための道具に過ぎない?  そうも、思った…  が、  これでは、和子と同じ…  伸明もまた、五井の女帝である、伸明の叔母の和子と同じだ…  私は、思った…  私は、考えた…  そして、そんなことを、考えながら、気付いた…  いわゆる、愛情の問題だ…  例えば、A男が、B子を好きだと、する。  すると、当然、A男が、B子を好きなのは、B子もわかるし、A男とB子の周囲の者も、皆、気付くものだ…  ただ、それを、口にするか、しないかの、違いだけ…  それだけだ…  そして、A男が、B子を、どう好きか?  わかりやすく言えば、将来、結婚したいぐらい好きか?  あるいは、  そうではなく、ただ好きか?  要するに、その違いは、なにかといえば、難しいが、下心があるかないかの違いだろう…  つまりは、相手を、性的な対象に含むか、否かの違いだろう…  そして、それは、大方、B子本人のみならず、周囲の人間も気付くものだ…  そして、私が、なぜ、そんなことを、突然、言い出すのか?  それは、伸明のことを、言いたいからだ…  伸明が、私を好きなのは、わかる…  これは、断じて、私の思い違いでも、なんでもない…  が、  どうして、好きか?  と、問われれば、答えに窮する…  つまりは、答えが見つからない…  私が、美人だから、好きなのでは?  とも、考えられるが、伸明にそれは、当てはまらない…  なぜなら、伸明は、大金持ちだからだ…  だから、私以上の美人は、腐るほど、手に入るだろう…  おまけに、私は、もう若くない…  歳も32歳…  私より、もっと、若くて、きれいな女を、伸明は、その気になれば、簡単に手に入れることが、できるだろう…  だとすれば、やはり、私が、建造の娘だと、誤解していたからか?  そうも、考える…  私は、本物の寿綾乃ではない…  本物の寿綾乃は、亡くなった…  が、  それを知らなかった伸明は、私を本物の寿綾乃だと、思っていた…  だから、好きになった…  それが、真相だろう…  が、  しかしながら、それが、ウソだと、わかっても、伸明の私に対する態度は、変わらなかった…  これは、一体なぜ?  考えれば、考えるほど、疑問が沸く…  それとも、これは、ナオキのせい…  そうとも、気付いた…  伸明は、ナオキと仲がいい…  だから、ナオキの、事実上のパートナーだった私を無下にできない…  そんなことをすれば、伸明は、ナオキとの間の友情にヒビが入るからだ…  だから、できない…  そうとも、言える…  が、  確証はない…  あくまで、推測…  が、  それも、伸明が、ナオキから、FK興産の株を譲り受けるのが、前提とすれば、どうか?  もしかしたら、すでに、伸明は、ナオキから、FK興産の株を譲り受けたのかも、しれない…  だから、急に私に冷たくなった…  そうとも、考えられる…  つまりは、私は、用済み…  すでに、利用価値がなくなった?  そうとも、考えられる…  が、  本当のところは、わからない…  まだ、わからない…  が、  おそらく、まもなくわかる…  そんな予感がする…  それは、なぜか?  それは、ナオキが、おそらく、和子の元にいるから…  もし、ナオキが、今、和子の元にいて、FK興産の株を五井に売却すれば、目的は、終了する…  和子と伸明の目的は、あくまで、ナオキの持つ、FK興産の株を五井に売却させるのが、目的…  だから、ナオキから株を買い取れば、目的が終了する…  目的が、終了すれば、伸明の真意がわかる…  そういうことだ…  これは、変な話、男が女と一夜を共にするのと、同じ…  同じだ…  一度、ヤレば、女は、用済み…  そんな男は、この世の中に、ごまんといる…  そして、それは、女もまた同じ…  同じだ…  一度、寝ただけで、終わるのは、男だけではないと、いうことだ…  男だけの専売特許ではないということだ…  私は、思った…  私は、考えた…  いずれにしろ、まもなく、すべて、わかる…  和子の狙いも…  伸明の狙いも、わかる…  伸明の私に対する真意もわかる…  そう、思うと、怖くなった…  同時に、変な話、わかりたくもあり、その一方で、できれば、一生、わからない方が、いいとも、思った…  なぜなら、このままだから…  中途半端のまま…  現状維持のままだから…  このまま、人生を送ることができるからだ…  が、  世の中は、そんなに甘くない…  まもなく、意外な展開を見せることになる…                <続く>
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