優しい彼

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中山佳子(なかやまけいこ)21歳。 幼馴染の|高山律(たかやまりつ)とは、小中高と同じ学校へ通った。 大学も同じだ。 入学式の日、律くんから告白された。 「俺たちこのままより、付き合った方が、もっと仲良くなれると思う」と頬を赤くしながら言われた事を 覚えている。 付き合う前だって、律くんは私に優しかった。 でも、彼氏という名前がついただけで、どうしてこんなに気分がよくなるんだろう。 まるで心に羽根が生えたようだった。 一緒に色々な所へ行った。 いっぱい写真も撮った。 いつまでもこんな関係が続くと思っていたのに、律くんが病気になった。 そこからはあっけなくて。 大号泣する私を置いて、律くんは春のある日、天国に旅立った。 *** いつも一緒にいた律くんを忘れる事なんて出来なくて、ぽっかり心に穴があいたよう…… ずっと泣いていた。 友達は気分転換に色々な所に誘って連れて行ってくれた。 話も聞いてくれたし、寂しい夜は泊まりに来てくれたりもした。 だけど、中々心の傷は塞がらない。 そんな一年を過ごして来た。 もう次の春を迎えている 本当はずっと悲しんでいる場合ではないのは分かっていた。 だけど。 だけど…… その時。 コンコンと私の部屋がノックされ、キィとドアが開く。 「佳ちゃん」 部屋に聞き慣れた声が聞こえる。 振り返ると、私は目を見開いた。 「律くんっ」 「佳ちゃん、どうしたんだよ。そんなに驚いた顔して」 「え?律くんこそ……亡くなったんじゃ…」 そこにいる律くんは、ハッキリと人間の姿をしていた。 恐る恐る近寄ってみると、ぎゅっと力一杯抱きしめてくれる。 「うそ…律くん。生きてたのね!ありがとう、ありがとう!」 私は律くんの胸で泣いた。 律くんは私の頭を撫でてくれる。 「佳ちゃん、最近ピアノ弾いてる?ピアノの先生になるの夢じゃん。しっかりしないとダメだよ」 「うん、…うん」 驚きと、喜びでちゃんと返事が出来ない。 「あと、ちゃんと前を向かなきゃ。 人生勿体無いよ。大丈夫?」 「律くんがいれば大丈夫だから!だから、どこにも行かないで」 律くんは無言で頭を撫でてくれている。 「ね?元気になったんだよね?」 私が律くんを見上げると、彼はニコリと笑って「うん」と頷いた。 「今は元気だよ。だから、安心して佳ちゃんは新しい恋もして、素敵な人生を過ごして欲しいんだ」 「何を言ってるの?せっかく、…せっかくこうやって戻ってきてくれたのに嫌だよ」 「約束して。元気に頑張るって」 彼は小指を差し出した。 「ね、早く約束して」 私は目に涙を溜めながら、無言で自分の小指を絡める。 「約束だよ」 律くんは、私から一歩離れた。 「律くん、待って!どこに行くの?元気になって戻ってきたんだよね!?」 彼はフッと微笑む。 「今日だけのウソだよ」 「今日だけ?」 私はカレンダーをチラリと見た。 今日は4月1日。 エイプリルフールだ。 「やだっ!律くんどう言う事!?」 「約束だよ」 もうそこに、律くんの姿はなかった。 「律くんっ!」 力一杯叫んだけれど、律くんは戻って来なかった。 *** 律くんとの約束、守らなきゃ。 そう思えたのは、エイプリルフールから数日経った後だった。 律くんは病気から解放されて、今は天国で元気にやってるって事なんだ。 いつまでも悲しんでると、律くんが心配する。 ちゃんと、自分の人生頑張っていかないと。 驚きと嬉しさと、そして、少し悲しいエイプリルフールだった。 自分の為に。彼の為に。 頑張って、前を向いて歩いていく。
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