第一章──その時は突然に

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「あなた……」  清海は駆け寄った。 「よう……」  意識を取り戻していた博之は手を挙げ笑顔で応えた。左腕には点滴の針が挿しこまれている。 「あなた、びっくりしましたよ。こんな人前だというのに私、化粧もせずに……」  確かに清海の顔は素顔に近かった。髪も後ろで束ねただけで急いでここに向かってきたのがわかる。 「すまん。心配かけたな。たぶんここ数週間、根詰めて仕事したから疲れが一気に出ちゃったんだろ」 「そうなんですか。それならいいですけど、心配しました」 「まぁ、あれだ。プレゼンも終わって一段落ついたから気が抜けちゃったんだろ。まだまだ若いと思っていたが俺ももう年だな。検査もあったみたいだからその結果が分かるまで暫くは安静にってことなんだ……これからって時にさっ」  博之は苦虫を噛み潰した。 「でもあなたには桜井さんも黒木さんもいるじゃない、少し任せたら?」  そう言って赤くなった目にハンカチを押し当てた。 「そうだな、黒木も最近成長してきたし、暫くは任せても安心だろ。桜井専務もいることだし……そうだ桜井専務は?」  博之は桜井に申し訳ないという顔をしてる。ホールで待って頂いていると清海は博之に伝えた。博之はすぐに桜井の元に行って心配ないからと伝えてくれと清海に言いった。 「疲れた、少しだけ眠らせてくれ」  博之は頼み目を閉じた。清海は分かりましたとゆっくりとドアを閉め桜井の待つホールへ向かった。清海が病室を出て足音が遠くに聞こえていた。目をゆっくり開く博之。何日か前から違和感のあるお腹をさするように押さえた。 「この痛み治らねぇな……」  痛みが発症した数日間、博之は誰にも伝えず耐えていた。  ──何もなければいいんだが……まだこれからなんだ。清海はもちろん、静流や拓斗はこれからなんだ──  
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