プロローグ──向かう場所

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プロローグ──向かう場所

 拓斗(たくと)はアクセルを踏み込みたい気持ちを必死に押さえた。陽は沈みかけ空はオレンジ色に染まり影を落とした。街並みは黒く縁取られている。ひたすらに、目的に向かい車を走らせた。 「間に合ってくれよ。いつもなんでこうなんだ……」  拓斗は独り言のように呟やいた。   数分ほど前、拓斗の携帯が(つんざ)くような音を立て鳴り響いた。部屋には彼一人だった。 「──誰だ?」  スマートフォンの画面を覗き込む。画面には姉、静流(しずる)の名前が表示されていた。何も考えずに拓斗は電話に出た。他愛ない話ならすぐに切ってやれと思っていた。 「──えっ?」  しかし、内容は全く予想しないものだった。電話越しに静流は早口に捲し立てる。電話越しの声を聞く度に背中から嫌な汗が吹き出した。ビールでも飲んで今日一日を締めようとしていたが消し飛んでしまった。逆に飲まずに良かった。後少しでも遅ければビールを喉に流し込んでいただろう。後悔するところだった。テーブルに缶ビールは置いたまま。冷えた缶は汗をかき、幾重も水滴を流していた。 「分かった、すぐ向かうから」  電話を切り、一件連絡を入れ、拓斗は急いで身支度を始めた。脱ぎ散らかした靴下をそのまま履き、皺がよったズボンも気にせず一気に脚を通した。ベルトをさっと締める。仕事帰りのシャツは汗臭いままだったが気にする暇もない。玄関に向かい、キーケースを握り絞めた。そこから家の鍵を探し出し鍵穴に差し込もうとした。しかし何度試してもうまく差さらず悪戦苦闘するはめになった。苛立つ拓斗は落ち着けと自分に言い聞かせ、慎重に鍵を差し込んだ。くるりと鍵が回った。カチャリと音が鳴りドアはロックされた。取っ手を掴み締まっているか確認し、小走りで車に向かい勢いよく乗り込んだ。  今度は滑り込むように旨く鍵穴に差さり、そのまま回すとエンジンは勢い良く掛かった。エンジンは動き出し唸りを上げる。車は今か今かと走り出すサインを待ち、拓斗の操作を待っている。拓斗はいつもの手順で車を動かした。ハンドルを握りアクセルを踏みこんだ。急にペダルを踏み込まれた車はびっくりしたかのように急発進し、荒っぽい運転は五月蝿いだけの音を残し走り去った。    残された家。そこには荒れ果てた庭がある。昔はいつも四季折々に花々が咲いていたものだ。今の時期であれば、向日葵が幾重にも重なるように咲いていただろう。太陽に向けて燦々と陽を浴び、気持ち良く咲いていたはずだった。家自体はこじんまりしているが、高台にあり色鮮やかな草花で埋め尽くされていた。花咲き乱れる自慢の丘だった。しかし、今は見る影もない。なんとか咲いてるがまばらにあるだけ。赤茶げた土壌が露骨に剥き出し、雑草がいたる所から生えていた。茶色く変色し枯れ果てた無惨な姿もあった。拓斗が慌て急いで出て行った家はなんとも言えない静寂な時間だけを残し
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