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何処となくきれいな顔立ちのルーファスとは違い、ブラムは精悍な顔立ちのたくましい男性である。そのためか、役柄があまり被らない。そんな二人は、実のところ世にいう幼馴染の関係だった。
「そんなことよりも。……大丈夫だったのか?」
「……もう、聞いているのか」
「あぁ、アレックスさんから、色々とな」
ブラムはルーファスの隣の椅子に腰を下ろして、ルーファスを見つめてくる。
その漆黒色の目は、なにもかもを見透かしているようであり、ルーファスの心がざわついた。
が、それを悟られないように、こほんと咳ばらいを一度する。
「……ということは、あのことも聞いたんだろう?」
ちらりと視線を向けて、さりげなくそう問いかけてみた。
「……ルーカスのことを、身を挺して庇った女の子のことか?」
「わかっているんだったら、それも言ってくれ」
「悪い悪い」
全く悪びれた風もなく、ブラムはそう言って笑った。
彼の言葉を聞きながら、ルーファスは少しだけお茶を飲む。
(……ヘレナ・メイプル、か。メイプル男爵家の末娘の名前だったな)
頭の中でちょっとだけ考えながら、ルーファスは自身の分のお茶を淹れるブラムに視線を向ける。
「こんなことを言ってはなんだけれど、お前は本当に女性に夢を見せるのが上手いからな」
「……その言い方だと、まるで俺が詐欺師みたいじゃないか」
「そんなことはないって、俺はわかってるよ。……それに、ここに所属している以上、それ以前に色恋沙汰はご法度だ」
ゆるゆると首を横に振りながらブラムがそう言う。
この劇場『アシュベリー』に所属する俳優や女優に、色恋沙汰はご法度である。
ほかの劇場はどうなのか知らないが、ここに関してはいろいろとややこしい決まりがあると聞いている。
もちろん、貴族の子息子女の場合、そう簡単な問題ではないのだが。
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