伸明 7

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 意外な展開というのは、FK興産の行方だった…  私は、FK興産を、五井が、買収するものだとばかリ、考えていた…  が、  そうでは、なかった…  私が、五井記念病院に身を隠していた伸明を訪ねた数日後、突然、発表された…  それは、業務提携というか…  とりあえず、五井が、FK興産の株を半分、所有して、今後は、共同経営する形で運営すると、発表された…  これは、まさに、青天の霹靂(へきれき)というか…  これまで、考えたことのない展開だった…  私は、それを、テレビやネットで、知った…  いきなり、ナオキと伸明が、並んで、記者会見をして、発表したのだ…  だから、これは、驚き…  まさに、驚き以外なかった…  まさに、開いた口が塞がらないとでも、いうべきか?  唖然として、それを、テレビで、見ていた…  冒頭で、ナオキが、  「…世間をお騒がせして、申し訳ありません…」  と、詫びた…  そして、  「…今回、私が、代表取締役を務めるFK興産に対してで、ございますが、ここに臨席する、諏訪野伸明氏が、率いる五井グループに、ご融資頂き、FK興産の経営に参加して頂くことになりました…」  と、説明した…  …経営に参加って?…  私は、唖然として、自宅で、テレビを見ながら、考えた…  そして、当然ながら、臨席した記者から、質問が、飛んだ…  「…FK興産の経営に参加するということですが…」  と、記者が、質問した…  「…それが、五井が、FK興産の株の半分を買収したということですか?…」  と、質問した…  「…その通りで、ございます…」  と、ナオキが、丁寧に回答する…  ナオキは、週一で、テレビで、キャスターを務めていただけ、あって、こうした場は、馴れたものだった…  「…しかしながら、現実には、FK興産の株は、公開していますから、私が、所有する個人の株の半分を五井に譲って、その形で、共同経営する形になります…」  「…共同経営ですか?…」  記者が、狐につままれたような表情になった…  「…いわゆる、経営指導という側面もあります…」  と、ナオキが、補足する…  「…経営指導っていうのは、一体、どういう意味でしょうか?…」  「…それは、言葉通りの意味…つまり、ここにいる、五井の方に経営の指導をして頂くということです…」  ナオキが、続けた…  そして、その後、伸明が、  「…実は、私は、以前から、藤原ナオキ氏と親しくさせて頂いて、おりまして、時々、経営のことも、聞き、おこがましいのですが、アドバイスもさせて頂きました…」  と、口を開いた…  「…その延長線上で、私も個人的に、藤原氏に、いささかの金額を融資していたのですが、それが、皆さまも、ご承知のように、いわゆる、所得税法違反、すなわち脱税で、藤原氏が、逮捕されることになり、それゆえ、拘置所から出た、藤原氏と今後のことを、話し合いました…その結果、私共も、FK興産の経営に参加することになり、それを了承する形で、藤原氏から、株を譲って頂くことになりました…」  伸明が、淡々と説明する…  私は、その会見を見て、  …だからか?…  と、気付いた…  …だから、伸明は、五井記念病院に身を隠していたのか?…  と、気付いた…  おそらくは、水面下で、やりとりをしていたに、違いない…  が、  自分は、動かなかった…  いや、  動いてはいるのだろうが、カラダは、動かない…  つまりは、五井記念病院の一室で、メールや、携帯で、部下に指示を出していたのだろう…  今の時代だ…  直接、会わずとも、パソコン一つで、会議ができる…  WEBカメラで、顔を合わせて、話すことができる…  そういうことだろう…  そして、その方が、疑われずにすむ…  どうしても、動けば、その動静が、周囲に漏れる…  だから、伸明は、あえて、あの五井記念病院に閉じこもって、アレコレ、指示を出していたに違いない…  …食わせ者!…  …まさに、とんでもない食わせ者だと、気付いた…  すっかり、裏をかかれた…  まさに、まさか、だ…  まさか、こんな展開を迎えるとは、考えもしなかった…  予想もつかない展開だった…  が、  それに、しても、共同経営とは?  考えもしない形だった…  が、  おそらくは、それは、最初だけ…  最初だけだろう…  大方は、数年後、FK興産は、五井に飲み込まれる…  小が大と提携して、対等になるわけではない…  大方は、飲み込まれる運命…  そして、もし、飲み込まれないとしたら、それは、FK興産の経営状態が、五井が、思ったより、はるかに、悪い場合だろう…  むしろ、飲み込めば、自分の不利になる…  だから、提携は、ご破算…  早々に、五井は、身を引くに違いない…  つまりは、この提携という形が、五井にとって、一番良い形…  五井にとっては、とりあえず、提携という形で、FK興産の内情を調べて、その後、どうするか、考えれば、いい…  ある意味、猶予期間というか…    仮免許とでも、いうべきか…  この後、本格的にFK興産を、買収して、五井の傘下に組み込むか、手放すかの、考える時間を得たというべきだろう…  それを、思うと、この伸明のしたたかさを、見た思いだった…  いや、  和子のしたたかさだろうか?  が、  どちらの仕業だかは、わからない…  なにしろ、私には、情報がない…  だから、推測するしかない…  それゆえ、本当のところは、わからない…  私は、思った…  私は、考えた…  が、  いずれ、まもなく真相がわかる…  なぜなら、私が、ナオキと会えば、真相がわかるからだ…  ナオキとは、ずっと、連絡していない…  なぜ、連絡しないのか?  と、問われれば、ナオキから、連絡が、来ないから…  だとしか、言えない…  言いようがない…  おおげさに、言えば、私とナオキは、一心同体というか…  これまで、ずっと、二人で生きてきた…  そんな自負がある…  そんな自信がある…  たしかに、ナオキは、女癖が悪くて、あっちの女、こっちの女と、次々と、女の間を渡り歩いたが、長続きは、しなかった…  それは、所詮、カラダ目当てだからだろう…  そして、相手の女は、金目当て…  ナオキの持つ財産が目当て…  これでは、長続きするはずもない(苦笑)…  出会って、何度か、寝れば、女は、金を要求し、男は、女のカラダに飽きる…  だから、別れる…  お互い、うんざりするからだ…  そして、男は、次に別の女を探す…  その繰り返し…  永久に満たされることのない行為の繰り返しだ…  ナオキは、ルックスも良く、根が真面目だが、女が好きだった…  そして、女が、好きと、根が真面目とは、一見すると、矛盾するように、考えられる…  が、  矛盾はしない…  それは、変な例えになるが、真面目ならば、酒を飲まないか?  それと、似ている…  つまりは、個人の嗜好とでも、呼べば、いいのだろうか?  男でも、女でも、いろいろな相手と関係してみたいと、夢想する人間は、いるだろうが、それは、あくまで、夢想するだけ…  実際にできるわけではない…  が、  ナオキはできる…  なぜ、できるのか?  それは、金があるから、できる…  そういうことだ…  男でも女でも、有名になり、金があると、わかると、周囲の反応が、違ってくる…  無名時代は、モテなかった男女でも、別人のように、モテてくる…  周囲の見方が、変わって来るからだ…  仮に、ルックスが、たいして、よくなくても、モテる…  それは、相手が、ルックスを求めているわけでは、ないからだ…  相手が有名であることや、金や才能を求めているからだ…  だから、モテる…  それゆえ、モテだした男女は、欲望に忠実に行動するようになる…  が、  だからといって、幸せでもなんでもないのかも、しれない…  それは、相手が目まぐるしく変わるから、わかる…  純粋に相手を好きならば、そんなに簡単に相手が変わるわけがない…  だから、ナオキにとっては、それは、競馬や競輪に近いものかも、しれない…  いわば、趣味の世界…  自分の性欲を満たすだけのもの…  それだけのことかも、しれない…  だから、長続きしない…  が、  私とは、続いた…  それは、ナオキは、私に性欲を求めていないからだろう…  ぶっちゃけ、私になにを求めているかと、言えば、相談相手というか…  ハッキリ言えば、ただ気が合うのだろう…  だから、長続きしている…  そういうことだろう…  かつては、男女の関係にあったが、最近は、めっきりご無沙汰…  男女の関係もない…  にもかかわらず、関係が続いているのは、ただ、気が合うからだろう…  お金があったり、ルックスが良かったりする人間は、誰もが憧れるものだ…  これに男女の違いはない…  が、  いかにルックスに憧れても、いっしょにいて、気が合わなければ、話にならない…  お互い、いっしょにいるのが、辛くなる…  そういうことだ…  私は、思った…  だから、そんなナオキと私の間柄だからこそ、私から、連絡をしなかった…  昔の言葉で言えば、ツーと言えば、カー…  互いが、相手がなにを、考えているか、わかる…  だから、連絡が、必要ならば、ナオキから連絡がある…  連絡がないのは、連絡する必要がないから…  そう、信じていたからだ…  だから、私から、連絡をしなかった…  連絡が、来ないのは、なにかしら、理由があると、思っていたからだ…  だから、自分から、連絡をしなかった…  が、  最後まで、ナオキから連絡はなかった…  そして、今回の記者会見…  寂しくもあり、悲しくもあった…                <続く>
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