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今日から四月だよと、晴れ渡る故郷の空のブルーがささやく。
今年も咲いてくれた校庭の桜がささやく。
そして鳥たちの声を乗せた風が、一瞬さらりと吹き抜ける。
春眠暁を覚えず、処々に啼鳥を聞く、だっけ。
今は昼間だけど、人は起きたままでも夢を見る。醒めない夢を見ていられる。
春の景色はまるで、私達にきらきらの優しい魔法をかけているみたいで。
このまま空を見上げて、気が付いたら日が暮れていても、それはそれで良い日だったかもしれない。
「ああああああああ」
「ぬおおおおおおお」
ちょっとお、やだなあ浸ってるのに。
私の空想をぶち壊してダッシュする、荒くれ者二人の奇声と足音。おお、速い速い。
「ねえ由鳥、安室君と竜崎君さっそく走ってるよ。元気だねえ」
にかっ、と音がしそうな笑顔でひかりが言った。
「ねえ、仲良しだよね」
「じゃあ、あいつらはほっといて。
俺達は教室に戻ろうか」
みんなのまとめ役、生徒会長の秋葉君がよく通る声で聞こえる様に言うと、二人は両足の踵を揃え「くの字」になって、キキーっと見事な急ブレーキをかけて停止する。凄い、まるで猫とネズミがケンカするアニメみたい。
「ははっそうだな、よーし教室に戻ろうぜ!」
サッカー大好きなムードメーカー、安室君が手を叩く。
「おう、みんな席に着こう!」
クラスで一番脚が速い、坊主頭の竜崎君がどっかと腰を下ろす。
私達のクラスは、チームワークならどこにも負けないんだから。
みんな冴えない田舎者。漫画やゲームの様なイケメンも美女もいない。
でも、このメンバーだからこそ、私の中で「中学生」「同級生」と言う言葉は一生ものの輝きを放つのだ。
大好きだよ、みんな。
「なんだおい息切れてるぜ竜崎」
「うるせえ安室俺の勝ちだ」
仲良くケンカを続ける二人に、秋葉君が空を見上げたまま口を挟む。
「安室は将来、サッカー選手になるんだよな。
昔からの夢だもんな」
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