Ⅰ.らしい提案

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Ⅰ.らしい提案

「――な? 絶対そう思わないか?」  そう言いながら誇らしげにスマホの画面を見せてくる。  タツキの表情は、いつもの悪ガキスマイルだった。楽しい時や嬉しい時に見せるこの顔は、到底二十四歳のものとは思えない。高校生……いや、下手したら小学生くらいに見えなくもない。 「……どこを見ればいいの」 「だぁかぁらぁ! ここ、ここ! このピンのところ見てみ!」 「ああこれ。ん、なにこれ? ぽつんと一軒家的なやつ?」 「違うって、そこの地名!」  私はマップアプリ上でピンが立った位置から視線を動かし、画面下部の方を見た。そこには説明欄らしきテキストボックスがあり、中には座標を示す数値が物々しく書いてある。その下に『花見ヶ崎自然公園(はなみがさきしぜんこうえん)』という日本語が踊っていた。 「――な?」 「え、だからなに?」 「いや……リっちゃん? 俺の話聞いてなかったのかよ!?」 「ごめん……勢いが凄かったから……」 「だぁかぁらぁ! 『花見ヶ崎自然公園』だよ! これって絶対桜の名所だろ!? そう思わないか!?」  ああそっか。  そう言えば、そんな話だったな。その同意を求められていたんだ。 「……いや、名前は確かにね。どこで知った地名なの?」 「いや、マップでさ、グイ――ってスクロールしたら、そこにあった!」 「要するに、知らない土地なのね?」 「ああ、ワクワクするだろ」  出たよ。  なんて言っていいやら、ザ・タツキという感じの案件だ。  思い付きと勢いと好奇心。計り知れないものに対してのワクワクを抑えられない、お前はどこぞの戦闘民族かと問いたくなる。 「……それで、その地名についてGoogle先生はなんて?」 「それがよ、『もしかして――花見山公園』だってさ」 「だめじゃん」 「先生だって、知らないことはあるだろう!」  だめだ。このパターンは完全に私、そこに連れて行かれる。  私はね、何の気なしに週末の天気予報を見ながら「晴れだし、お花見とかしたいね」って言っただけなんだけどな。誰も未開の地とか新たなる名所の発掘とか、頼んでないんだけどな。
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