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僕がタメ口になったのをきっかけに、橋本さんも遠慮が無くなった。 3つ年上のわりには丸顔にショートカットがよく似合って可愛らしい。 なのにところどころ辛辣なことを言い『あはは』と豪快に笑う。 ずっと話していたい心地良さがある。 コーヒーが好きだからひとりでコーヒー屋を巡るのが趣味だと言ったら子供のクセに、と揶揄われた。 『子供子供ってしつこいなぁ。 ま、橋本さんより若いのは間違ってないけどね。』 『そうよ、自分の嫌な気持ちを抑えきれないとこ、まだまだ子供だわ。』 痛いところを突かれてまた恥ずかしくなる。 『さっきのは…まあ感じ悪かったなと思ってるよ。』 上を向いて『あはは』と笑う。 『でも、そんなところが芹沢くんのいいとこだね。 変に大人にならないで…』 ふと会話が途切れて橋本さんが桜を見上げる。 またその横顔に翳りを感じてしまう。 桜が好きだと言いながら見上げるたびに感じる影の違和感。 なんとなく胸騒ぎがするのを打ち消すように僕は慌てて話し掛けた。 『それにしてもゴツい腕時計してるね。 重くないの?』 先ほどからコートの袖に見え隠れする大きな腕時計が気になっていた。 桜から僕に視線を移し、ひと息おいてから苦笑いした。 『…やっぱり、似合わないよね。』 ‘これいいでしょ?’くらいの軽い返事が来ると思っていたから意外なトーンダウンにさらに慌ててしまった。 『あ、そんなことも無いけど…』 僕がそこまで言うとスクッと立ち上がり『トイレ行ってくるねー。』と靴を履いて出て行った。 いなくなってから、ああ、あれは彼氏の物か、それかプレゼントか、と思いついた。 そりゃーいるよね、彼氏くらい…。 自分がここしばらく恋愛に縁が無かった為かすぐに気が付かなかったことにモヤモヤした。 …でも何で苦笑いしたんだろう。 うまくいってないのかな。 そんなことをボンヤリ考えていたら、咲き溢れる桜の間を橋本さんが歩いてくるのが見えてきた。 さらに傾いた逆光の夕陽に金色に縁取られ立ち止まって桜を見上げる姿はどこかで見た絵画のように美しくて…時間が止まった。 次に気が付くと目の前に立っていた。 『はい!』と温かい缶コーヒーを手渡され、僕は僕の中に芽生えた気持ちを自覚した。
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