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70話 厳選
「楽しみだね〜」
「ああ、だな」
僕たちは今、新婚旅行で四泊六日のハワイに向かっている。長い間飛行機に乗るらしく、酔わないか心配だった。
腕を組んでいるからか、柑橘系の香りが強く漂っていた。そのおかげか、気がつくと寝てしまったようだった。
頭を撫でてくれてて、それがとても心地よかった。どれぐらい経ったのか分からないけど、声をかけられた。
「湊。機内食、チキンとビーフどっちがいい?」
「んっ……チキ、ン」
「了解。チキンとビーフどちらもで、飲み物はお茶で」
彼が何やらCAさんと話していたけど、僕はウトウトしていたから分からなかった。しばらくして、彼に起こされた。
「湊、機内食きたぞ」
「う〜ん……食べる」
「ほら、口開けて」
「あ〜ん」
僕はほぼ寝ながら、機内食を食べさせてもらった。パクパクと食べさせてもらって、段々と目が覚めてきた。
「えっと、自分で食べれるよ」
「いいから、食べて」
「冷めちゃうよ」
「俺は湊が、満足なら満足だから」
僕の言葉聞いてる? まあでも、嬉しそうにしているからいいかな。そう思って、素直に食べさせてもらった。
僕がお茶を啜っていると、彼も食べ始めたようだった。僕はそんな彼を、静かに見つめていた。
「美味しい?」
「ああ、美味いよ」
機内食を食べて僕たちは、腕を組んで談笑していた。内容はこれからの予定に、関することだった。
「全部任せてしまったけど、良かったの?」
「もちろんだ。湊のために、考えたからな」
「花楓……ありがと」
僕たちは体を密着させて、見つめ合っていた。周りから変な目で見られていたけど、僕たちには関係ない。
どこに行っても僕たちの関係性は、変わらないんだなと嬉しくなった。そこで僕たちは、見つめ合って談笑し始めた。
「花楓は、ハワイ何回め?」
「二回目だな」
「そうなんだ。僕は、ハワイ初めてだから楽しみ」
海外自体は営業で行ったことあるけど、ハワイは初なんだよね。初めてが彼と一緒とか、嬉しすぎてニヤけてしまう。
全部彼に手続きとか、やってもらったから日程が分からないんだよね。言われたものを、準備したけども。
しばらくして眠たくなってきたから、僕たちは手を繋いで寝ていた。機内アナウンスで、起きると彼に見つめられていた。
「おはよう、湊」
「もう起きる時間? ふわあ〜」
「ああ、起きて」
もうここはハワイなんだよね。不思議な気分、僕たちは立ち上がって荷物を持って機内を後にする。
空港に着いて荷物を受け取って、タクシーでホテルに向かっていた。僕たちはその間もずっと、身を寄せ合っていた。
「ホテル行ったら、どこ行くの?」
「まずは、ビーチだな。水着持ってきただろ?」
「うん、楽しみ」
運転手さんに見られていたけど、僕たちはそんなことお構いなしだった。しばらくすると、ホテルに着いたのだが……。
あまりの豪華絢爛さに、僕は何も言えなかった。空いた口が塞がらないとでも、言うべきか……。
彼のことだから、安いホテルではないと思っていた。それでも、入り口にはシャンデリアがあって豪華な壺も置いてあった。
「ねえ、ここのホテルって」
「うちの取引先のホテルだよ」
なるほど、ですよね〜もう何もツッコまないことにしよう。部屋に案内されて、僕たちは入っていく。
窓からは海が一望できて、夜景は綺麗なんだろうなと思った。僕がテラスに出て、はしゃいでいると彼に抱きしめられた。
「やっと、二人っきりになれた」
「花楓……」
僕が後ろを振り向くと、優しく触れるだけのキスをした。僕はしっかりと彼の方に向き直って、優しく抱きしめ合った。
もう一度目を見て微笑み合って、見つめ合った。幸せだなと噛み締めていると、急に着ていた服を脱がされた。
「ちょっ、なんで!」
「海に行くなら、水着に着替えないと」
「そ、そうだけど……恥ずかしいから、そっち向いてて」
「いいじゃん、今更」
そう言われたけど、恥ずかしいものは恥ずかしい。僕がしっかりと目を見て、訴えると彼は渋々違う方向を見て着替え始める。
僕はそれを確認して、服を脱いで裸になった。二年ぐらい前に買った水着を……あれ? あっ、上の方を持ってくるの忘れた。
Ωの男性用の水着は、上下に分かれている。その上の方を忘れてきたから、そっちを忘れてしまった。
Ωとはいえ、男だからいいんだけど……この変に敏感になっている上半身を、人に見せたくないよ。
そう思っていると、彼に耳元に息を吹きかけられて変な声が出てしまう。後ろから肩に手を置かれていた。
「早く着替えなよ。もしかして、誘ってる?」
「ちがっ、持ってくるの忘れた」
「あー、なるほど。じゃあ、買いに行こうか。ほら、下着穿いて」
「う、うん……」
彼に下着を穿かせてもらって、服を着て僕たちは手を繋いでホテルを後にする。海の近くに、ある水着を売っている店に入る。
意外と日本人も多く、なんか嬉しくなってしまった。僕が適当な水着を選んでいると、彼に水着を二種類笑顔で渡された。
「えっと、これは……」
「俺が厳選したんだ、試着して」
「別に僕はなんでも」
「俺が選んだの、着たくないんだ」
そう言ってわざとらしく、ウルウルしていた。周りから変な目で見られていたから、僕は仕方なく受け取って試着室に向かう。
一瞬彼がニヤッとしたのが見えたけど、無視することにした。服を脱いで着ようとするけど、女性ものじゃないよね。
そう思って顔だけ出して、彼に声をかける。ニコニコ笑顔をしていて、少し気持ち悪い。
「あのさ……女性ものじゃないよね」
「もちろんだ。女性ものを選ぶわけないだろ」
「そ、そうだよね」
僕は半分首を傾げながら、もう一度全部の水着を確認する。一つ目は紫色のワンピースで、下に半ズボンの海パンを穿く仕様になっている。
柄はヤシの木がプリントされていて、完全に女性用に見える。まあいいや……一旦無視して、二つ目を見る。
上下に分かれていて、上が薄いピンクの肩出しで長袖。下がスカートになっていて、濃いピンクの短いやつ。
「ねえ、やっぱ女性ものだよね」
「違うって、Ωの男性用だ」
「ほんとかな……ワンピースと、スカートなんだよね」
「はあ……湊が嫌なら、他の選んでくるよ」
なんかため息をついて、他のを探しに行く。なんで僕が悪いみたいな感じを、醸し出されているの?
なんか変な感じ……そう思っていると、次に渡されものは……上下に分かれている。どちらもビキニで、朱色の差し色がされている。
これは際どいな……Ωの男性用で間違い無いと思うけど。仕方ないから着てみると、ピッタリサイズで少し怖くなった。
「着たか」
「うん、着たけど……やっぱ、これも」
「開けるぞ」
「ちょっ!」
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