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 キラッと歯を光らせながらそう言ったジェイドの顔を凝視し、カイエは顔を引きつらせた。 「あっはっはっは、無駄な労力だね~」  カイルーズは乾いた笑いを浮かべながらそう言う。  しかも、ジェイドが作ったリュセル専用Tシャツの太文字は”父上大好き”。願望入り過ぎである。 「じゃあ、もうこれだけでいいや! リュセル、このTシャツを着て、パパとペアルックをしよう!」  十七歳リュー君用のTシャツを持ってリュセルに詰め寄る国王ジェイド。現時点での、アシェイラ国の最高権力者。 「はははは~、ご冗談を」  ギラッとした目でリュセルに睨まれたジェイドは、目をウルウルさせてむせび泣くかと思いきや、逆に目をクワっと見開いた。 「今回パパは負けないよ、リュセル! 絶対に……逃さない」  その、いつにない真剣な父王の様子に、さすがに危機を感じたリュセルは、咄嗟にカイルーズの執務机の上に置かれていた小箱の中身をジェイドに投げつけた。 「そんな変なTシャツ、絶対に着ないぞ!」  色男が台無しになるじゃないか! と怒鳴りながら、それを連続でリュセルは投げる。しかし、いつになく強気なジェイドにそれは通じなかった。 「ハッ!」  そんな掛け声と共に、素早く片手のみでリュセルが自分に投げつけたそれらを空中で掴み取る。 「…………」 「…………」  ど、どうしたんだ!? その素早い動きは、まるで鍛えぬかれた武人のような動きだ。  あ、ありえない。  驚きに目を見開くリュセルの目前で、ジェイドはリュセルが投げつけたお菓子を、豪快に包み紙ごと全部口に入れ、噛み砕き、飲みこむと、キランっと目を光らせる。 「こんな攻撃、効かないよ、リュセル」  そんなにもリュセルとペアルックがしたいのか? 目をすわらせたジェイドは不敵な笑みを浮かべたまま、じりじりと末息子に近寄って行く。  その手にはもちろん、”父上大好き”Tシャツが……。 「嫌だ~~~~! レオン、頼むから俺を助けろ!」 「はいはい、少し待ってなさい。……カイルーズ?」  こちらの騒ぎを視界にも入れずに、カイルーズに相談されていた一部の執務内容についてアドバイスをしていたレオンハルトは、目の前の、すぐ下の弟が目を丸くしているのに気づく。 「さっき、リュセルが投げつけて父上が食べたやつって、例のチョコレート……だよ?」 「「!?」」  カイルーズの呆然としたような声を聞き、カイエとレオンハルトは目を見張る。 「なんで、そんなものを机の上に、またまた無造作に置いていたんですかああああ~~~~~~!?」 「ぎゃああああああああああ~~~~!」  カイエの怒鳴り声と、リュセルの悲鳴は同時であった。 「「「!!!!?????」」」  カイエ、カイルーズ、レオンハルトが同時に目を向けた先には……。  太文字Tシャツ片手にリュセルに襲いかかっているカイルーズがいた。 「…………」 「……はい!?」 「ん? 僕がいるねぇ」  上からレオンハルト、カイエ、カイルーズだ。 「で、でででででで殿下が、二人~~~~~~~~!?」  執務机にのん気に座っているカイルーズと、リュセルにTシャツを着せようと奮闘中のカイルーズを交互に見比べながら、カイエはそう叫ぶ。 「違う、これは父上だ! 一瞬呻いたと思ったら、姿がいきなり変わったんだよ」  リュセルはなんとかTシャツを阻もうとするが、若返ったジェイドは、当然、体力も前よりも断然ある為、なかなか手強い。 「なんか、さっきちょっと苦しかったんだケド、今はすごく体が軽いよ~~! リュー君、レオン、カイル!」  そう言ってウインクする父王に、カイルーズは冷静に言った。 「軽く二十歳は若返っているよ。リュセルってば、例のチョコレートを四~五個、父上に投げつけたようだねぇ」 「な、何を、そんなにのん気に構えてるんですか!? どどどどどどうするおつもりですかっ!? どう見ても、今の陛下は殿下と同じ位のお年ですよ!」  カイルーズが父親似の為、まるで双子の兄弟のようになってしまっている。 「なんか~、自分の顔であんな変なTシャツ着てるのって、すごく嫌だな~~~~」  カイルーズは、ボ~っとしながらそう呟いた。 「リュー君。さあ、お着替えしましょうね。パパが着替えさせて、あ、げ、る」  うふっと、カイルーズと同じ顔で気持ちの悪い笑みを浮かべるジェイドは、自分が若返った事にまるで気づいていない。 「うぎゃああああああ~~~~!」  着々とTシャツ姿にさせられて悲鳴を上げるリュセルを、うつろな目で見守るカイルーズとカイエ。 「…………」  無言で小さくため息をついた無敵なお兄様が、この後、サンジェイラに逆戻りし、ローウェンに特効薬を作ってもらえるまで、この馬鹿騒ぎは続いたという。  ちなみにこの後、リュセルはしばらくチョコレート嫌いになり、見るのも触るのにも恐怖を覚えたらしい。
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