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春花の夫の冬馬は書斎で1人、妻が出版した料理本を眺めていた。
亡くなった千秋の件で私は幸い罪には問われなかったが、妻はめっきり塞ぎ込んでしまったし、子供も幼稚園に行かなくなった。
僕は料理を作るのが趣味なだけで、他人から絶讚されたいとか、ちやほやされたいとか考えたことはなかった。
だから妻がインスタに僕の料理をアップしていたのを知った時も、別に構わないと思った。
料理本のオファーを勝手に受けたと聞いた時は流石に焦ったけれど、バレなければ誰も傷付かないので妻がボロを出さないようにアドバイスもした。
千秋との不倫が世間にバレる方が怖かった。
妻と交代で子供を幼稚園に送り迎えしている時に千秋と親しくなり、深い仲になった。
お互い火遊びのつもりだったはずなのに、「夫と子供を捨てて一緒になりたい」と千秋が言い出した。
『優しくて妻想いで絶対に浮気なんてしなさそうな良い夫』という僕のイメージが台無しになってしまう。
だから急に花見が決まったと妻から聞いた時、間接的に千秋を殺す方法を思い付いた。
思惑通り千秋は死んでくれた。
無関係の夏実さんを巻き込む訳にはいかないので、事前に夏実さんの食べられない物を妻に聞いてもらった。
卵アレルギーの夏実さんが玉子焼きを食べるはずがないし、ニラが嫌いな妻も同じだ。
しらを切り通せなくなった妻は警察に料理を作ったのは僕だと話した。
まあいい。
表向きには、ニラだと思って摘んだ野草がたまたまスイセンだっただけだ。
僕は千秋の夫や子供に恨まれるだろうか?
千秋の夫は妻に掛けていた高額な保険がやっと下り、最近高級車を買ったばかりだとか。
料理本やインタビューやイベントなどで稼いだ金は返さなくてもよくなったのでたんまりある。
親子3人で海外に移住するのも悪くない。
妻の嘘は僕の責任でもあるし、子供の為に離婚するつもりもない。
これから僕は『妻の承認欲求の為に利用された可哀想で優しい夫』を演じなければならないのだ。
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